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「……そうだな勝」
「え?」
「お前の言う通りに、俺は『ずぐなし』なのかもしれないな」
突然始まった芝居に、涼真は驚いて目を見開いた。
悠斗が『涼真』ではなく、『勝』とキャラクターの名を呼んだことに動揺して、いったい何事かと言い掛けるが。
その前に、悠斗がさらに踏み込んできた。
「物心ついてから、寄って来るのはカネ目当ての連中ばかりでよ。ハハハ……それ抜きで俺なんかに近付いて来たヤツなんて、勝くらいだ」
「はる――」
「俺は人を信じるのが怖い。何でかって言うと、俺にとっては、みんな本音と建て前が違うのが当たり前だったからだ。でもお前は……本当に真っ直ぐだ。勝みたいなヤツ、初めて会ったよ」
悠斗はそう言うと、床に座り込んだままの涼真の前に膝をついた。
ジッとその瞳を見つめ、ゆっくりと唇を開く。
「勝を、好きになって良いか?」
「……」
「もしも――――お前をこのまま抱きたいって言ったら、許してくれるか?」
「……テツヤ」
涼真の唇からは、自然とその名前が出ていた。
自分の前で膝をつき、真摯な眼差しを注いでくる男の名は『悠斗』なのだが、何故かテツヤと。
それに疑問など感じないまま、涼真はゆったりと笑う。
思いもかけず綺麗な笑顔に、悠斗の鼓動がドキンと跳ねる。
(おっと。この野郎、笑ったら結構可愛いじゃねーか。こいつからアイディアを引き出す為の芝居のつもりだったのに、本気になっちまいそうだ)
冷たくてお高く留まっているとばかり思っていた涼真の、意外な面を次々と目の当たりにして、悠斗は、体の芯が熱くなってくるのを感じた。
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