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「お二人とも、この業界ではそれなりのキャリアなんでしょう? 最初からそんなにケンカ腰じゃあ、オレも困ります。左文字先生も右近先生も立派なプロなんですから、ここは仲良く手を取り合って協力しましょうよ」 『プロなんですから』という言葉に悠斗と涼真も少し頭を冷やし、ゴホンと気まずげにそれぞれ咳払いをすると、前のめりになってた距離をそっと正した。  しかし気にかかるのは、この、どう見ても新人の若い編集だ。  創刊号に携わるらしいが、普通、新人編集一人に作家の挨拶回りなどさせるだろうか?  まさか、そこまで人手が足りないとでもいうのか? (少なくとも、文夏社の代表取締役社長を務める安藤マリサという女は、少ない人手を使い回して現場を疲弊させる真似は嫌うタイプの経営者だと思っていたが)  不信感を滲ませて、涼真は静流を見遣る。 「……ええと、この名刺は本当に君のモノか? 」 「はい、勿論そうです。中河静流、新卒で文夏社へ幸運にも採用が決まりました! 午前中、社でBL企画部のミーティングをしたばっかりです! 現場の即戦力になる為に、バリバリ頑張ります!!」 「…………午前中、ミーティングしたばっかり……」  それはつまり、まだ研修中という事ではないか。  そんな状態の新人編集が、たった一人で作家の元を訪れるなど聞いた事もない。  訝し気な様子になる涼真の隣で、悠斗は自分のスマホを取り出すと、登録されていた番号へ電話を掛けた。  少しの呼び出し音の後、すぐに相手は電話に出た。 『はい』 「岸さん、左文字だ。前の出版社では世話になったな。あんたも今回、文夏社に移ったってな。マリサさんから聞いてるぞ」  電話の相手は、かつて左文字悠斗が読み切りを描いた青年誌で編集をしていた岸千之(きし かずゆき)であった。  岸は、マリサの立ち上げたBL企画部リーダーの一人に抜擢されたと聞いている。 『ああ、お久しぶりです。左文字先生には、こちらから連絡しようと――』 「お前の所の中河静流ってのは、何なんだ!? 」
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