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 そんな静流を挟んで、悠斗と涼真は険悪そのままに睨み合う。 「作品を読みもしないで一方的にホモ小説を言い切るあたり、同じ創作に携わる者として見過ごせないね」 「何だと? ホモはホモだろうが!? こんなの、キモくて読む価値なんかねーよ」 「いまどきそんな低俗な罵倒を耳にするとは思わなかった。君は一体いつの時代の人間だ? 考えられないね、そのセリフ」 「は? 言わせておけば――」  すると、すかさず静流がぴょんと飛び跳ねるように顔を上げ、自分より頭一つ以上高い位置にある二人の顔を交互に見た。 「あの、オレ、やっぱり思うんですが」 「なんだよ! 」 「なにかな? 」  仲良くハモった作家二人に対し、静流は毅然と胸を張る。 「お互いが、それぞれ相手の事を全然知らないから、やっぱりダメなんだと思うんです。マリサ社長の采配で、今回の話が持ち上がったと編集長から聞いてますが――ただ、今まで組んだことのない作家同士、もしかしたらモメる可能性もあるかもと……」  先日そんな事を、守谷編集長とリーダーの岸班長が、冗談半分本気半分といった様子で話していたのを耳にした静流である。その場合は、ペアを変えることも考えておかないとダメかもと。  それを聞いて、静流は俄然(一人勝手に)張り切った。  新卒の身としては、まだまだ編集として社の戦力になるのは難しい。  実際、本格的に静流が何かの仕事を任されるのはまだ先の話で、当分は会議室での研修が続く。  だが、せっかく編集という仕事に就いた以上は、何かの役に立ちたいと強く思っている。  自分は、普段は日和見主義の静流であるが、ここはスタンドプレーでもいいから行動を起こそうと、普通の編集者ではありえない行動に出てしまい――――こうしてここに(問題の作家の一人である)左文字悠斗を連れて来てしまった次第だ。 (う~ん、まさか「BL小説原作で作画担当する左文字悠斗先生ですね、よろしくお願いします」って自宅を訪ねて挨拶しただけだったのに、ここまで(こじ)れちゃうなんて)  自分がこの事態を招いた張本人だというのに、静流は溜め息をつく。
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