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お試し期間からできること
「小林……男の好みがとくにないってことなら、俺とつき合ってくれないか?」
私、小林奈緒にとって、人生初になる男子からの告白がこの台詞だった。
高校に入学して間もないころ、クラスの友達には彼氏ができたらいいなとは言ったけど、具体的に誰かとつき合いたかったわけじゃない。異性の好みもなかったし、そのうち実現できればいいなって程度で。
まさか五月を待たずに立候補してくる人がいるなんて夢にも思わなかった。彼は、私とちがうクラスなのに、どうやって私たちの会話を知ったのだろう。私が掃除当番をサボらずに校舎裏の掃き掃除をしてることもだ。他の生徒が寄り付かない木陰は、絶好の告白場所になってしまった。
「最上くんって私のことが好きなの?」
最上くん――最上健吾くんは、背が高くて、おそらく一八〇センチは越えている。落ち着いた雰囲気から大学生にまちがえられてもおかしくない。顔立ちだって、わりと整っている。そんな彼が、私に関心があるとは信じられなかった。
「だから、俺でもいいのかって聞いてるんだよ!」
最上くんは、プイと私から目を逸らした。怒らせてしまっただろうか。っていうか告白しておいて逆ギレ?
「急に言われても、ねぇ……」
驚いたけれど、最上くんの額に浮かぶ大粒の汗を見たら、悪い気はしなかった。誰かに好きと意思表示されるなんて、東京にいたころには考えられなかったから。それを表現してくれたのは、彼が初めてだった。
「最上くんのこと、よく知らないし……お試し期間が欲しいんだけど」
どうして「お試し」なんて口走ったのか、自分でもわからない。
「お試し……それじゃ返事はOKと思っていいんだな!」
真顔で詰め寄ってきた最上くんに、私は反射的に頷いてしまった。
「私、最上くんが思っているような人間じゃないかもしれないよ? つき合っても最上くんを好きになれるか自信がないし」
「そんなの、つき合ってみなきゃわからないだろう!」
直接告白してきたことといい、どうやら彼は果敢な挑戦者タイプらしい。
勢いに押された結果、私に初めて彼氏ができた――お試しだけど。
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