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「お母さん?」
最上くんは、眉を顰めたまま鸚鵡返しに尋ねてきた。骨壺の中身は、昼間荼毘に付した私の実の母親の遺骨だ。
私は庭に移動しようと彼を促した。ウッドデッキに腰を下ろして、今度は私が最上くんに話しかける。
「私を産んだ母はね、見栄っ張りな人で、贅沢なブランド品ばかり買い漁っては、まわりの人間に自慢していたの。子供より自分の楽しみにお金をかけるタイプ」
家事なんてほとんどしない人だった。私は家事を手伝ってもお小遣いはもらえないし、服だってバーゲンで買ったものや、母親のおさがり。自転車なんて買ってもらえるはずがなかった。
父は、そんな母に愛想を尽かして家を出て行ったまま。何年も別居生活が続き、一昨年正式に離婚が成立した。生活態度を改めない母を見かねて、伯母が私を引き取ってくれたのだ。
「今の母は、私の伯母にあたる人なの」
耀子ママは、母のお姉さん。
「私は小林家の養女なんだ」
一年前。私一人が、燿子ママたちの暮らす町に引っ越してきた。最初は戸惑いもしたけど、新しい生活に慣れるのに時間はかからなかった。家事を手伝わなくても叱られないし、お小遣いをもらうのにいちいち言い訳を考えなくても済む。
『これからは、たくさん勉強して、たくさん遊んで。心も体も成長させることが子供の仕事なんだよ』
引っ越してきた最初の日に、仁パパにそう言われて涙が出た。無条件に守ってくれる親。安心して熟睡できる家。その日から、毎日が楽しかった。
「坂下が言ってた。中学のとき、大人の事情で小林がこの家に引き取られたらしいって」
大人の事情って……子供のいない夫婦のもとに中学生がやってくれば、誰だって詮索したくもなるか。
「だけど、小林は小林だし。必要があれば、今みたいに自分から話してくれるだろ?」
私と同級生なのに、冷静な最上くんがとても大人に見える。
「母は、自宅で倒れていたんだって――心臓麻痺で」
無断欠勤が続いたため、不審に思った上司が住まいを訪問。警察まで呼ぶ事態に発展したらしい。
「連絡を受けたときに、ショックじゃない自分にへこんだの」
仁パパからのメッセージを「ふーん」なんて他人事みたいに読んでいる自分にゾッとした。実の母の名前に嫌悪感を覚えた自分自身にも。
「悲しいって気持ちが湧かなかった。自分がよければ、人のことはどうでもいいのかって……あの人と同じじゃないかって」
お腹を痛めて産んだ子供に無関心だった母親。そんな母に、私も似てしまったんじゃないか?
「そんなことはない!」
最上くんは、はっきり否定してくれたうえにこう続けた。
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