意外な接点

8/41
2039人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
「適当」ができるって、私にはものすごくうらやましい才能だ。 「うーん、そうだね。まあ、私は味覚だけは優れてるから。料理は唯一の取り柄かな」 萌花はそう言って笑うけど、そんなことはありえない。 「唯一って。何言ってるの!萌花はかわいいし優しいししっかりしてるし、取り柄は料理だけじゃないでしょう。椿ちゃんだって、1人であんなにかわいく立派に育ててさっ」 詳しい理由は本人が話さないので知らないけれど、大学時代・・・中退をして、萌花は未婚で椿ちゃんを一人で産んだ。 けれど愚痴をこぼすこともなく、ここまで頑張ってきた萌花のことを、私はとても尊敬している。 ほろ酔いで思わず力説していると、左側に空席をひとつ挟んだ隣の席の、門脇さんも「うんうん」と強く頷いていた。 「そうだよなあ。料理以外も全てだな。萌花ちゃんは、全身がもう取り柄の塊みたいなもんだよなあ」 45歳、バツイチ門脇さんの呟きに、私と萌花は顔を見合わせてぷぷっと笑った。 「なんですか。トリエノカタマリって」 「ね。音だけ聞くと、鳥料理のなにかみたいに聞こえます」 「えーっ!」 門脇さんは、「なんでそうなる」と言ってがっくりと肩を落とした。 萌花ファンの門脇さんは、上手く自分の気持ちが伝わらず、落ち込んでしまったようだった。 「めちゃくちゃ褒めたのになあ」 「ふふっ、大丈夫です。わかってますよ」 「ありがとうございます」と、萌花はにっこり微笑んだ。それだけで、門脇さんはすっかり元気になっていた。 「あっ、けど美桜ちゃん、彼氏に振られちゃったのかあ・・・。浮気って、他にも理由ちゃんと聞いたの?」 気持ちを立て直した門脇さんは、日本酒を一口飲んで私に尋ねた。 お店に来てから、私はカウンターでずっと萌花に失恋話を語っていたので、隣にいる門脇さんも、もれなくもちろん聞いている。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!