スパイスルークラブ

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スパイスルークラブ

 スパイスルークラブというゲイ向け風俗店が、その界隈で密やかに、しかし確実にその名を広めている。  繁華街から少し離れた雑居ビルのワンフロアにひっそりと居を構えるその店は、店員(ボーイ)が客の希望するコスチュームを着用してプレイを行う、所謂イメージクラブの形態をとっている。  複数用意されている個室には、電車内や教室、オフィスといった特定の場所を模した内装が施されており、電車内の痴漢プレイなど、実社会では行えない性的嗜好を叶えることが出来る。  一見さんお断りで、風俗店情報サイトにも掲載されていないその店が、如何にしてクチコミのみで名を上げているのかというと、コンタというボーイがその要因であるようだった。 「せんせっ……もっ、やめてぇ……」  教室を模した五畳ほどの個室には、黒板と教卓、それから学校によくある机と椅子のセットが二つ設置されている。  その『教室プレイ』の個室で、コンタは教卓の天板に縋り付くように伏して懇願していた。 「やめねぇよ……ッ! ちくしょうっ、俺が、いつもッ、どんな気持ちでッ、授業してると、思ってんだッ!」  白のワイシャツは乱れ、グレーのスラックスを足元までずり下げた三十前後の客が、言葉を発する毎に、コンタの奥深くを貫くように腰を打ち付ける。 「せん、せぇ……」  両手を後ろ手にしてネクタイで縛られ、教卓に擦り付けるようにして頭を抑えられているコンタは、身動きが取れないながらもなんとか横目で客の男――『先生』へ訴えかけた。 「また、そうやって……! その目で俺を誘惑するのか、斎藤……ッ!」 「んうっ……」  ブレザーの首元を乱暴に掴まれ、じとりと汗の滲む項が露になる。  視界の端に映った男は、怒りを抑えているような、泣き出しそうな、切なげな、そういう感情を綯い交ぜにしたような顔をしていた。 「誘惑なんて、してな……」  男が、白く艶のあるコンタの項をついとなぞる。そしてその手を固く握りしめたかと思うと、堰き止めていたものを押し流すようにして声を荒らげた。 「してるよ! してるんだよ! クソっ……! クソォっ!」  どうやら、男は完全にとコンタとのプレイとを交錯しているようだった。  教え子であるらしい生徒の名前をしきりに口にしながら、腰の動きを速めていく。  それと同時にコンタの喘ぎも激しくなり、うっすらと涙を浮かべた瞳をぎゅっと閉じると、コンタの頬に雫が一筋流れ落ちた。 「好きなんだよ、斎藤……!」  最後はコンタの耳元でそう呟いて、男は欲望というに相応しい精を紺色ブレザーに吐き出した。
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