やまない雨と猫が一匹

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 昨晩から降り続ける雨の音を聞きながら、私は部屋で本を読む。  買い物は昨日の内にしておいたし、家事の類は朝やっておいたので実質、今は休み時間だ。  会社も休み、外は雨。ならばやれることと言えば自分の趣味に打ち込むことだけ。アプリゲームをやろうかとも思ったが、今の気分はゲームではなく活字が読みたかった。  学生時代に好きだったミステリー本を読みながらページだけを捲っていく。 ”なぉ” 「ん?」  ふと、どこからか猫の声が聞こえた。  私は顔を上げ、左右を見回すが特に何も見つからなかった。しばらく耳を澄ませてみても何も聞こえない。 「空耳だったかな?」  自分に言い聞かせるように独白し、再び本を手に取る。 ”なぁ”  雨の音と一緒にどこからか聞こえてくる猫の声に、私は重い腰を上げて窓を開けた。  築年数30年のアパートの二階隅部屋。周りは住宅街のベッドタウンだ。  ベランダから身を乗り出し、辺りを見回すと、ソレはいた。  下の階の人は留守なのか、薄透明の屋根の下に三毛色の猫が一匹、居座ってる。私は面白がる風に猫に声を掛けた。 「お前さん、雨宿りかい?」  猫からの返事はない。当たり前だ。だが、耳だけが私の方を向くのが面白くて更に声を掛けた。 「雨宿りなら、こっちにおいでよ。ミルクで良ければ一杯奢るよ」  微動だにしない猫に、私は苦笑を漏らして部屋の中へ戻った。  雨は強くなる一方。  私が本の世界へ戻って、さらに時間が過ぎた。  物語はいよいよ佳境に入る。探偵が犯人の手がかりを見つける直前のことだーーー。 『みあ』  今度の声は雨音に消されていない。  私が本を置いて窓を開けると、そいつはこともあろうか私の部屋に入り込んできた。 「あ、こら!」  自分で呼んでおいて追い払ってもいいものか、一瞬の逡巡の内に猫は私の部屋のクッションの上に座りくつろぎ始めた。 「こ~ら、部屋に入るなら足……というか身体を洗わないとばっちいでしょ」  言いながら、猫を掴もうとすると、猫は大抗議して暴れた。  ぬるりと、まるでウナギの如く私の手から逃げる猫を、何とか洗面所に連れて行くと、私は容赦なく猫を丸洗いした。 『ミギャアアアーーーー!!!」  暴れに暴れて、私の頬や腕、あまつの末に頬まで引っ掛か傷を貰ってしまった。 「いててて、恩知らずめ」  猫はツンと顔をそっぽ向けて再びクッションに、その身を沈めていた。  余程、気に入ったのだろうか。  私はミステリー本に手を伸ばす気力がなくなった。  猫は窓の外を眺めている。  雨はまだ降っていた。  私は猫の横に座り、一緒になって雨を眺めてみた。  シトシト、ザーザー降る雨はまだやみそうもない。  突然の来客と一緒に、私は雨の日を楽しんでみた。
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