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出会い
妻と僕、
どちらが先に落ちたのか
恋や愛が作る見えない檻に自ら入ったのは、どっちだったのか
今となっては、どうでもいい話。
彼女は、担当先の社長のお嬢さんだった。
「お父様、」
その声に社長と二人で振り向くと、清楚なワンピースを着た色白の女性が立っていた。少ししてドアを開けた時動いた空気が、彼女が持つ仄かな香りを運んできた。
「薫、どうした?」
彼女はドアノブを握ってた細い指を口元に持っていき、
「あっ!申し訳ありません、お仕事の邪魔をして…あの、この方は?」
社長は姿勢を正し、
「ああ、今度うちで使っているソフトを一新しようと思ってね。業者の方だよ」
僕は彼女に近寄って、
「○○エンジニアの岸田祐真です」
差し出した名刺を丁寧に受け取った彼女の薬指に、誰かのモノだという印はない。
「初めまして、娘の関口薫です」
いっとき僕たちは見つめ合い、先に視線を外したのは彼女だった。赤らめた頬を照れ隠しなのかワザと膨らませ、
「もう!お父様、お昼ご一緒する約束だったでしょ?」
初対面の男の前で、父親に拗ねた顔をする彼女が可愛いかった。
「ああ、すまん、忘れてた…もうこんな時間か。近くに美味しい鰻屋があるんだが、岸田君も、どうかね?」
彼女の事を色々知りたかったが、取りかかったばかりの仕事初めにいきなりご馳走になるというのは厚かましい気がして、
「いえ、結構です。お弁当持って来てますので」
と断った。
「そうか、じゃ今度また」
社長はそう言って娘と一緒に出て行った。退室際、会釈と共に残した彼女の笑顔が目に焼き付く。早速僕は昼休みに情報収集を始めるた。
「あの、さっき見えたお嬢さんは良くいらっしゃるのですか?」
年配の女性事務員は、僕が広げた弁当箱をチラッと見て
「薫さん?あんまり会社には来ないわね。
あ~でも最近多いかな?社長の家、今ごたついてるみたいだから」
と声を潜めて関口家の家庭の事情を話してくれた。
「偉いね~手作り弁当なんて」
「母子家庭だったので料理慣れてますから」
同情は買うつもりはないが手っ取り早く打ち解けるには、適度に自分を晒すのが処世術として身についていた。
気を許した年配の女性事務員が語ってくれた、薫さんが来社する理由。それは社長が持ってくる見合いの為だという。
僕の父は最低な男で母に暴力を振るい離婚。今はどうしているか分からない。
母は僕の成人式を見て数年後、過労死した。
僕は高校大学と特待制度を利用して卒業し、お金の苦労は身にしみてる。
だから話に出た関口家の長男に対憤慨した。
お金持ちの両親がふた親いて、順風満帆な将来を約束された身で何故絶縁?!理解できない。
彼女は行方をくらました兄のせいで、家業を継いでくれる結婚相手を探さなければならなかった。
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