雨の悪戯

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雨の日──。 窓に強く当たる雨粒の音がしばらくやむことのないことを告げていた。 「退屈……」 晴れの日であれば、まだ窓から差し込む光で部屋は明るいはずだが今日は厚い雲が広がる灰色の空。 早い時間から電気をつけて雨音が騒がしい窓の外を見つめながら私はそう呟く。 「会いたいな」 雨音だけが響く一人寂しい部屋で、思ってしまった。 彼に会いたいと。 けれど出れるものなら出てこいと言わんばかりに、思えば思うほど窓に打ち付ける音は大きくなって来る。 「行こうかな」 それだけ思いが強かったのか、それともそれ以外の理由があったのかは私自身もわからないが、電話もメールもせずに私はやむ気配のない雨に挑むことにした。 傘を頭の上に広げて空の下に踏み出すと、窓に打ち付ける音とは比べ物にならないほどの強くて大きな音が耳へ届く。 傘に当たった無数の雨粒たちは、長く繋がり一筋となって途切れることなく地面へ流れる。 「しまった……防水にしてなかった……」 普段の靴で出てしまったため、深めの水溜まりを踏もうとするならば濡れてしまう。 だが後戻りするつもりもない。 地面を流れる水が跳ねないように、でもなるべく早足で彼の部屋へと進む……。
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