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プロローグ~出逢い~
佐倉彩華は、17歳の高校2年生。
今日も、一人窓際の席で一人趣味の百合小説を読んでいる。
彩華を気にするクラスメートは、一人もいないが、彩華は俯きながら文庫を隠すようにして読んでいる。
作品柄、しっかりとブックカバーをしているのにである。
成績優秀な彩華だが、大人しい性格で、自分から話し掛ける事はおろか、周りから話し掛けられても、「はい」とか「うん」とかしか反応しない為に次第に誰からも相手にされなくなっていた。
学校だけではなく、家庭でも彩華は一人だった。両親は、年の離れた妹の未来ばかりを可愛がり、彩華の事はいないものとして扱っていたのである。
それでも、食事だけは、部屋の前に用意されており、こうやって学校には通わせてくれていたから、彩華は堪えていた。
耐えるしかなかったのだ。
一人で生きていく為の経済力なんて、17歳の彩華にはないのだから、だからどんなに辛くても、悲しくても耐えるしかなかったのである。
(はぁ~やっぱりガールズラブは、癒されるな~)
(あっ!そうだ、メッセージ来てるかな?)
そんな彩華の、もう一つの楽しみは、最近始めたサイトである。話し相手が欲しくて、最近登録したサイトである。
彩華は、スマホを取り出すと確認する。
スマホの画面には、新着メッセージ1件とある。
彩華は、紗絢さんかなと思いメッセージを開く。
メッセージを開くと、差出人の欄に紗絢とある。
やっぱり紗絢さんだ!彩華は急いで、本文を読み始める。
紗絢は、サイトで知り合った。24歳のOLをやっている女性だった。
彩華は、サイトを始めた時に、年上の女性限定で、募集していますと投稿していたのだ。彩華は、年上の女性が好きだから、年上の女性以外に興味がないと言っても良かった。
紗絢からは、「お会いしたいとの事ですが、お仕事の関係で、週末しか時間がありませんが、それでも大丈夫ですか?」とある。
内気な彩華だが、紗絢と知り合ってから、二週間、勇気を出して「会ってお話ししたいです」と、紗絢に送ってみたのだ。
彩華は、急いで返信する。
「良かったら、今週の土曜日お時間会ったらお会いしたいです。大丈夫ですか?」
返信すると、彩華は、スマホをしまう。紗絢は、仕事をしているから、返事は、いつも昼休みか夕方以降だった。
紗絢とのメールは、紗絢が仕事が終わってからの夕方以降が殆どだったので、返事は夕方以降かなっと思い、再び一人の時間を過ごす。
今日も、誰とも関わらず帰宅して、一人の夕食を終えると、早々とお風呂に入って自室に籠もるとスマホをチェックする。
(紗絢さんから、メール来てないかな?)
彩華にとって、紗絢からのメールが楽しみなのはもちろんだけど、生きる気力となっていたのである。
居場所のない彩華にとって、紗絢とのメールだけが、自分とのメールを楽しいと言ってくれた紗絢だけが救いだったから。
スマホをチェックすると、紗絢から返事が来ていたので、すぐに確認する。
「彩華ちゃん、こんばんは。今週の土曜日なら大丈夫だから、是非会ってお話ししましょう」と返事が来ていた。
彩華は、嬉しくなって、「土曜日凄く楽しみです。凄く嬉しいです」と直ぐに返事を返す。
紗絢からも、「私も、楽しみです。土曜日は何時頃がいいですか?場所は駅前だと分かり易くては助かります」と返事が来る。
彩華は、「10時に駅前で大丈夫ですか?」と返事すると、紗絢から「10時に駅前で大丈夫」と返事が来た。
その後は、紗絢から「お風呂入って、今日はもう寝るね。おやすみなさい」と返事が来るまで、ずっとメールしていた。
彩華は、土曜日の事を思うと自然と笑顔になっていた。
紗絢と初めて会う日の朝、彩華は悩んでいたと言うか、困っていた。
今まで、友達もいなかったから、マトモな洋服を持っていなかったのである。
(ど、どうしよう!私、全然洋服持ってないから、何着ていけばいいの?)
彩華は、30分悩んだ末に制服を着て行く事にした。これ以上悩んでいたら、待ち合わせの時間に間に合わなくなるから、諦めて制服を着ると家を出る。
駅前に着くと、待ち合わせの15分前だった。そこで、彩華は、今日の服装を紗絢にメールするのを忘れていた事を思い出して、スマホを取りだして、急いでメールする。
(これで、大丈夫だよね。特徴は昨日伝えたし)
彩華は、紗絢が来るまで、俯きながら待っていた。俯いてしまうのが、癖になっていた。
彩華は、スマホで時間を確認する。時刻は9:58分、待ち合わせの二分前、紗絢はまだ来ていない。
彩華が、紗絢さんまだかなと考えていると、全力で、走ってくる水色のワンピースを着た、小柄な女性の姿が目に入った。
その女性は、彩華の前まで来ると、息も絶え絶えに「ハァハァ、貴女が彩華ちゃん?制服着てるから、間違いないと思うんだけど、間違ってたらごめんなさい」と言ってくる。
彩華は、「わ、私が彩華です。紗絢さんですか?」と聞く。
小柄な女性は、ようやく息が整ったのか、笑顔で、「そうだよ。よろしくね!彩華ちゃん」と満面の笑顔で答える。
彩華は、一瞬で紗絢に心を奪われていた。
紗絢は、決して美人と言う訳ではないし、身長も160cmの彩華より10cmは低いので、150cm位である。
スタイルも、細身でストーンな体型である。茶髪のショートカットの何処にでも居そうな感じの女性だった。
でも彩華は、紗絢に心を奪われてしまって話せなくなってしまった。
黙ってしまった彩華に、紗絢が声を掛ける。
「あの、彩華ちゃん?どうしたの?」
紗絢の言葉にハッ!となる。
「い、いえ何でもないです。ごめんなさい」
彩華には、謝る癖もあった。
「何ともないなら、良かった。謝らなくて大丈夫」
紗絢は、優しく微笑みかける。
紗絢の優しさに感謝する。
「改めまして、黒崎紗絢です。24歳でOLやってますって、メールで話したよね。彩華ちゃんよろしくね」
「さ、佐倉彩華です。こ、高校二年生です。よ、よろしくお願いします」
彩華は、緊張していた。いつも一人だったからまともに他人と話すなんて、いつ以来かわからない位に話していなかったから。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。それにしても、彩華ちゃんスタイル抜群だし、美人さんで羨ましいなぁ~」
「そ、そんな事ないです」
彩華は美人で、黒髪ロングでスタイルも良かったが、自分に全く自信のない彩華は紗絢に、美人で羨ましいと言われて戸惑ってしまった。
「そんな事ないよ!美人だよ!やっぱりモテたりする?彼氏いるの?」
「わ、私女子校だしモテないし彼氏なんていないです」
さすがに、年上女性が好きで男性に全く興味がないとは言えない。
「そうなんだ~って、こんな所で立ち話もなんだから、何処か行こう。彩華ちゃんは何処に行きたい?」
「えっと、人の沢山居る場所は苦手なんで、二人でゆっくりお話し出来る場所がいいです」
本当は、紗絢の部屋に行ってみたかったけど、いきなりは駄目だよねと思い言えなかった。
「二人でゆっくり話せる場所か?う~ん」
紗絢が悩んでいる姿を、彩華は頬を染めながら見つめていた。
「なら、私の家に行く?私一人暮らしだから狭いけど、彩華ちゃんが嫌じゃなかったらなんたけど」
彩華は、ドキッとした。自分の心を 読まれたのではないかと思った。
そんな彩華を見て、紗絢が「やっぱり嫌だよね?」と聞いてくる。
「そ、そんな事ないです!私紗絢さんのお部屋行きたいです!」
彩華が、顔を近づけて興奮気味に言ってくるのを見て、紗絢は「なら決まりだね」と言って歩き出すので、彩華も急いで紗絢についていった。
途中スーパーで、飲み物やお菓子等を購入して、紗絢の部屋に向かう。
「あ、あの紗絢さん?」
「うん?どうしたの?彩華ちゃん」
「お、お金本当にいいんですか?」
スーパーでの買い物は、全て紗絢が出したので、それを気にしていたのだ。
「いいの、いいの。私の方がお姉さんなんだから、気にしなくて大丈夫!」
紗絢の部屋に着くと、彩華は緊張MAXのあまりいつも以上に俯いてしまう。
「汚い部屋でごめんね。まさか部屋で話すと思ってなくて、掃除してなくて」
紗絢は、照れくさそうにしながら、彩華に謝る。
「ぜ、全然綺麗ですし、とても可愛いお部屋だと思います」
「ありがとう。私いい年して、ぬいぐるみ好きだから、ぬいぐるみばっか増えちゃって」
紗絢の部屋には、沢山ぬいぐるみがあった。小さいのから、大きいのまで結構な数である。
「わ、私もぬいぐるみ好きです」
「なら良かった。彩華ちゃんの趣味は何?」
唐突に紗絢が聞いてきたので、正直困ってしまった。百合小説が大好きで、趣味は百合小説を読む事なんて言ったら、変に思われないかな?大丈夫かな?と悩んでしまうが、紗絢なら大丈夫だと何故か思った。
「私の趣味は、百合小説を読む事なんです、やっぱり変ですよね?」
「そんな事ないと思うよ。私も好きだし女の子同士、だからいいと思うよ」
彩華は、驚いた。絶対に変だと言われると思っていたのに、認めてくれるなんて、全く思って無かったから。
「趣味は、人それぞれだし、人の趣味を馬鹿にするやつは、その程度の人間だって思っておけばいいんだよ。彩華ちゃんは、彩華ちゃんらしくでいいと思うよ」
紗絢の様な人は、初めてだった。今まで出会った人は、みんな自分をいないものとして扱っていたのに、紗絢は私は私らしくでいいと言ってくれた。
彩華は、危うく泣きそうになったけど、何とか堪えた。
その後は、紗絢の愚痴を聞いたり、彩華のお薦めの百合小説の話をして過ごした。
楽しい時間は、あっという間に過ぎて行く、外は夕焼けに染まっていた。
「もう、こんな時間かぁ~彩華ちゃんとのお喋りが楽しくて、彩華ちゃん帰らなくて大丈夫?」
帰らなくて大丈夫?その言葉を聞いた瞬間、彩華は悲しくなった。初めて、私を認めてくれた紗絢と離れたくなかった。
家に帰ったら、また一人になってしまう。ずっと紗絢と居たかった。
彩華は泣いていた。俯きながら、ポロポロと涙を零していた。
「あ、彩華ちゃんどうしたの?」
彩華が泣いている事に気づいた紗絢は驚いて、彩華に問いかける。
「彩華ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
彩華は、何も答えない。
「本当に、どうしたの?」
紗絢は困ってしまう。すると彩華が突然泣きながら話し出す。
「わ、私家に帰っても居場所ないんです。
パパもママも、妹だけ可愛がって、私の事をいないものとして扱ってるから、だから!だから!帰りたくない!」
「!!」
紗絢は、ショックで何も言えなかった。大人しいけど、メールでも、今日の話の中でも、そんな事一言も言ってなかったから、今日も笑顔で会話していたから。
(こんな事、言えるはずないよね)
紗絢が、何も言えずにいると彩華は更に話しを続ける。
「私、私、学校でもいないもの扱いされてるから、私ここしか、紗絢さんの所しか居場所ないから、だから帰りたくない!ここに、紗絢さんの所に置いて下さい!お願いします!」
彩華は、大粒の涙を零しながら、必死に何度もお願いしますと頼んでくる。
「で、でも......」
紗絢は、どうしていいかわからずに口籠ってしまう。
「紗絢さん、お願いします!私もう!一人は嫌なんです!いないものとして扱われたくない!だから、だから......」
彩華の本音だった。もし紗絢と出逢っていなければ、彩華は、これからも一人我慢して耐えていただろう。
でも、紗絢と知り合い出逢った事で自分の本当の気持ちに素直になれたのだ。
紗絢は、本気で悩んだ。本当なら帰すべきだが、彩華の置かれている状況を知ってしまったから。
必死に紗絢に頼む彩華を放っておけなかった。この子を一人にしたら駄目だって思ったから、だから紗絢は、彩華を抱きしめると優しく語りかける。
「彩華ちゃん、ずっと頑張って来たんだね。寂しかったよね。本当は、こんな事言うのは、大人として駄目だって思うけど、彩華ちゃん一緒にここで暮らそう」
紗絢は、これ以上彩華の寂しそうな瞳を見たくなかった。だから戸惑いながらも、一緒に暮らそうと言っていたのである。
「ほ、本当にいいんですか?」
彩華は、信じられないと言った感じに訪ねてくる。
「本当だよ。一緒に暮らそう彩華ちゃん。でも一つだけ、手紙でもいいし、メールでもいいからご両親には、ここにいる事を伝える事!それが嫌なら一緒に暮らさないよ。わかった!」
最後のわかったは、敢えて強めに言った。大事な事だから、どんな両親であろうと彩華の親である事には、変わりないのだから、せめて居場所だけは伝えるべきだと思ったから。
彩華は、紗絢の胸に顔を埋めたまま答えないので、もう一度強めに言う。
「ちゃんと、両親に居場所だけは伝える事!わかった!わからないなら、出来ないなら一緒には暮らさないよ!」
再び強めに言うと、彩華は小声で「うん。わかった」と言ったので、彩華はならよしと彩華を強く抱きしめる。
彩華は、嬉しそうに紗絢を見つめている。その瞳に涙はもう無かった。
お風呂に入って寝る準備をするが、困った事が一つあった。紗絢のパジャマを貸したのだが、身長差とスタイルの違いから、彩華がパジャマを着るとパッツンパッツンだったのだが、彩華は嬉しそうにありがとうと言うと布団に入る。
彩華が布団に入るのを確認して、紗絢も電気を消して布団に入る。
少しして、隣にいる彩華を見ると泣き疲れたのか、彩華はスヤスヤと寝息をたてて眠っていたので、紗絢は安心して自分も寝に入るがこれからの事を考えると寝れなかった。
(これから、どうなるんだろう?)
紗絢の収入で、彩華一人なら何とか養っていけるけど、それ以上に彩華が言っていた言葉が頭から離れなかった。「私、もう一人は嫌なんです!」家でも、学校でもいないものとして扱われるって、どんだけ辛かったんだろうと考えると悲しくなった。
恋人が出来たことは、一度もない紗絢だけど、お友達もいて、一人っ子で家族から愛情を沢山貰って育ってきた紗絢には、彩華がどれだけ悲しみ、辛い思いをしてきたかわからない。わからないけど、彩華を大切にしようと思った。
こうして、心に傷を負ったJkと心優しいOLの同居生活は、スタートしたのである。
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