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~秘密のファーストキス~
彩華が、紗絢の家で住むようになってから、1ヶ月が過ぎた。
来週の期末テストが、終われば彩華は夏休みに入る。
彩華は、長期連休が嫌いだった。両親が彩華をいないものとして、扱う迄は夏休みが来るのが、楽しみで仕方なかったけど。
いないものとして扱われる様になってからは、嫌で嫌で仕方なかった。けど、今年は紗絢と過ごせると思うと、あんなに嫌だった夏休みが待ち遠しくて仕方ない。
(夏休み、紗絢さんとお出掛けしたいな。何処か遠くに行きたいな。海行きたいけど、紗絢さん嫌がるし、やっぱり温泉かな?)
この前の休みの日に、彩華は紗絢に一緒に海行きたいなと言ってみたのだが。
「私、胸ないから水着着たくないから、絶対に嫌!」
と有無も言わさぬ勢いで、全力で拒否されてしまった。
それでも、諦め切れない彩華は「私、紗絢さんの水着姿見たいな~」と甘い声で言ってみるが、「絶対に嫌!」と拒否られる。
「紗絢さんは、私の水着姿見たくないの......」と悲しげに言って、粘ってみる。
「見たいけど、海は嫌だからお部屋でいいなら考えてあげるから」
と言われてしまい、海は断念したのだ。
(海は諦めるけど、好きな人の水着姿は絶対に見たいので、今日紗絢さん帰って来たらお願いしてみよう。あと夏休みのお出掛けも好きな人と過ごす初めての夏休みか~)
まだ好きだと伝えられてないけど。
彩華は、紗絢に内緒で水着を買っていた。どうしても紗絢に見てほしかったから。
今日も、愛する紗絢の為に手料理を作る。
最近は、何とか食べれる位にはなってきていた。最初の頃は、散々だった。ハンバーグは黒炭となり、鍋を作れば、市販の元を使用しているにも、関わらず魔女の秘薬の様な液体となってしまう。とにかく悲惨だったので、帰ってきた紗絢が、私が作るから大丈夫だからと言われていた。
絆創膏も、何箱使用したかわからない。あまりにも、指を切るので、「もう包丁握ったら駄目!お願いだから~もう止めてよ~うわ~ん」と泣かれてしまった。
それでも、彩華は頑張った。どうしても紗絢に、手料理を食べて欲しかったから。
最近は、指を切る事もなくなったし、必死に料理する彩華を見て、紗絢も何も言わなくなった。
(紗絢さん、私の手料理喜んでくれるかな?)
などと彩華が考えている頃、紗絢は上司の鈴木音から怒られていた。
「黒崎さん!あなたやる気あるの!」
「す、すいません!」
「あなた、昇進試験まで、あと僅かしかないのよ!わかってるの!」
「はい!本当に申し訳ありません!」
音は、穏やかな口調に戻すと話を続ける。
「これは、あなたの為になる事なの。わかるよね?私は、あなたが頑張っているのを見てきたし、失敗ばかりだけど、めげずに努力しているあなただから、失敗ばかりだけど、この話をしたのよ」
正直、褒められてるのか、貶されてるのかわからなかったが、素直に返事する。
「はい!」
「あなた、最近特に頑張ってるよね。ひと月位前から、今まで以上に努力していると思うの。何があったかはわからないけど、そんなあなただからこそ、私の補佐として働いてほしい、働ける人材になってほしいのよ。だから明日からは、私と一緒に定時後昇進試験の勉強するわよ。わかった!」
「はい!よろしくお願いします!」
「もう戻っていいわよ。あと今日は定時で帰ってゆっくりしなさい」
「ありがとうごさいます。失礼します」
音に頭を下げて、自分のデスクに戻る。
音の言う通りで、紗絢は彩華と同居を始めてから、今まで以上に仕事を頑張っていた。
自分が、彩華を守ると決めたから、年上だからとかではなかった。自分でもわからなかったけど、もう彩華の悲しそうな顔は見たくないと思うから。
今迄なら、仕事が終わらなければ残業していたが、同居を始めてからは、なるべく定時で帰れる様にと頑張っていたのだ。
彩華と少しでも、一緒にいたいと紗絢自身思っていたから、彩華と過ごす時間が、紗絢にとって大切な時間になっていた。
(明日から、昇進試験終わるまでは残業して勉強かぁ~彩華ちゃんに言っておかないと、昇進試験が終わったら有給使って、彩華ちゃんと何処か行きたいな。ボーナスも入るし)
デスクに戻ると、残りの仕事に取り掛かるが、紗絢は彩華と何処に行こうかなと考えていた。
(海だけは、嫌だから海以外で何処がいいかな?)
彩華は、そわそわしていた。
(そろそろ紗絢さん帰って来るよね?)
何故そわそわしていたかと言うと、手料理は勿論だが、彩華は紗絢に自分の水着姿を見てもらおうと考えていた。あわよくば紗絢の水着姿も見せてもらおうと考えていたから、落ち着かなかった。
(あっ!お風呂掃除してなかった。紗絢さんが帰って来る前に、終わらせないと)
「ただいま~」
「紗絢さん、お帰りなさい」
彩華が、笑顔で迎えてくれる。
「紗絢さん、ご飯とお風呂どっち先にする?」
紗絢は悩んだが、汗をかいていたので「お風呂かな、汗かいたし」そう言うと鞄を置いて、脱衣所に行く。
紗絢が、お風呂に入ってる間に、ご飯を温め直す。
「ハア~気持ち良かった~」
紗絢が、お風呂から上がって来ると「はい、紗絢さん」と麦茶の入ったグラスを渡してくれる。
「ありがとう。彩華ちゃん」
「紗絢さんって、お酒呑まないの?」
彩華が聞いてくる。
「私、お酒呑めないから」
「そうなの?」と言いながら、テーブルに夕食を並べていく。
「うん。私弱くて、20歳になった時に会社の飲み会で、コップ一杯でダウンしちゃって、それ以来お前は、絶対呑むな!って、だからそれからは、一切呑んでないよ」
「そうなんだ」
取り留めのない会話をしながら、食べていると、彩華が不安そうな顔で、紗絢を見つめている。
「どうしたの?」
「え、えっと味どうかなって」
彩華は、自分の料理の評価が気になって仕方なかったのだ。
「うん。だいぶ良くなったよ」
「ほ、本当に!」
「本当だよ。回数こなしたらもっと美味しくなると思うよ。いつもありがとう彩華ちゃん」
彩華は、エヘへと嬉しそうに笑うと、自らも食べ始める。
夕食の間中、彩華は紗絢に褒められて、夢見心地な表情をしていた。夕食の後片付けを終えて、彩華が紗絢の隣りに座って、テレビを観ようとしたところで、紗絢が話し掛ける。
「彩華ちゃん、聞いてほしい話しがあるんだけどいいかな?」
テレビを観ようとしていた彩華は、リモコンを置くと「話しって何?」と聞いてきたので、紗絢は、明日からの事を伝える。
「明日から、仕事の昇進試験の勉強を仕事終わってから、音さんとする事になってね。それで暫く帰り遅くなるから、先にご飯食べて休んでてほしいの」
話すと、みるみるうちに彩華の表情が曇り出す。
「その、お勉強っていつまでなの?」
「昇進試験前の金曜日だから、明日から二週間かな」
「二週間もなの......」
彩華の表情が更に曇る。
「うん。だから寂しい思いさせちゃうけど、終わったら一緒に旅行でも行こう。ちょうど、彩華ちゃんも夏休み入るし」
「寂しい......」
俯いて、震えながら寂しいと呟く彩華を見て、紗絢は仕方ないなと言った感じで彩華を抱きしめる。
「もう、しょうがないな彩華ちゃんは」
優しく微笑みかけながら、彩華の頭を撫でる。
「だって、寂しいんだもん......」
「遅くなるけど、ちゃんと毎日帰ってくるんだから、ねぇ」
それでも、彩華は拗ねた子供の様に紗絢の胸の中で、だって寂しいんだもんと言い続ける。
「仕方ないな彩華ちゃんは、今日だけサービスで彩華ちゃんのお願い聞いてあげるから、だから拗ねないの」
そう言うと、彩華は顔をあげて「本当にお願い聞いてくれるの?」と上目遣いに言ってくる。
「私に出来る事限定だよ」
間髪入れずに、彩華が言う。
「紗絢さんの、水着姿が見たい!」
「えっ?」
「だから、紗絢さんの、水着姿が見たいな~」
彩華は、甘えた様な声でおねだりする。
紗絢は、一瞬悩んだけど、お部屋なら考えると以前言ってしまったし、いくら昇進試験の為とはいえ彩華に寂しい思いをさせてしまうと思うと断れなかった。
「わかった。でも期待しないでね」
「やったー」
彩華が、小さな子供の様に無邪気に喜ぶので、水着姿位で喜んでくれるならと紗絢は思った。
「私、着替えて来るから待っててね」
そう言うと、紗絢は衣装ケースから水着を取り出すと脱衣所に向かう。
紗絢が脱衣所に行くと彩華は買っておいた水着を取り出して、着替え始める。
紗絢は、脱衣所で着替えながら、こんな事なら新しいの買っておけば良かったと後悔する。胸が小さい事が悩みの紗絢は、社会人になってからは、一度も海やプールに行っていなかったので、高校生の時に買って以来、新しい水着を買っていなかった。
着替えを終えて、リビングの扉の前に来ると「入るよ」と言って、リビングに入る。
入った瞬間、紗絢は目が点になった。
何故なら、彩華が水着姿で待っていたからである。
「えっと、彩華ちゃん?どうして水着姿なの?」
訳がわからないと言った感じで、彩華に聞いてしまう。
「エヘへ~紗絢さんに見て欲しくて、内緒で水着買ってたの」
彩華は、嬉しそうに答える。
(私に見て欲しくて?)
彩華は、セパレートタイプの水着を着ていた。正直可愛いと思ったし、目のやり場に困ってしまった。
「どうかな?」
不安そうに、彩華が聞いてくる。
「凄く可愛いと思うし、やっぱり羨ましい」
紗絢は正直に答える。
「ありがとう♪紗絢さんも、凄く可愛いし似合ってるよ」
彩華は、そう言うと頬を染めている。
紗絢は、ワンピースタイプの水着を着ていた。
「あ、ありがとう」
照れてしまう。可愛いなんて、似合うなんて言われると思ってなかったから。
「紗絢さんの水着姿見れて嬉しい。ありがとう♪」
「どう致しまして、これで良い子で待っていられる?」
そう言うと、彩華は遠慮がちに「もう一つだけお願い聞いて欲しいな~」と言ってくる。
紗絢は、なぁ~にと聞いてみる。
彩華は、恥ずかしそうにモジモジしながら、もう一つのお願いを言う。
「えっと、明日から頑張って我慢するから、今日だけ同じお布団で寝てほしいの。駄目かな?」
「もう、彩華ちゃんは寂しがり屋さんだなぁ~」
「今日だけでいいから、駄目?」
「もう、しょうがないな。今日だけだからね」
そう言うと、彩華は嬉しそうに「うん♪」と言うと、いきなり抱きついてきたので、さすがにドキドキしてしまった。
嬉しそうに抱きついている、彩華を抱きしめながら、紗絢は幸せを感じていた。
一人暮らしをしていた時には、考えられない位に幸せを感じていた。
(彩華ちゃん、ありがとう)と心の中で呟いていた。
その後、何故か私がお風呂入るまでは、このままがいいと彩華が駄々を捏ねたので、仕方なく、彩華がお風呂に入るまでは二人共水着姿でいた。
彩華が、お風呂に入ると紗絢は着替えを始める。着替えながら自分の胸を見ながら、ハア~と溜息を吐く。
「彩華ちゃん、やっぱり大きかったなぁ~それに比べて私は......」
考えると悲しくなるので止めた。でも神様は不公平だーと心の中で叫びながら着替えを済ませた。
彩華は、お風呂から上がってくると、紗絢に髪乾かして~と甘えてくる。紗絢は、今日は本当に甘えん坊さんだなぁ~と思いつつも、ドライヤーで乾かしてあげる。
「そう言えば、彩華ちゃん来週テストだよね?勉強進んでるの?」
紗絢は、彩華が勉強している姿を見た事がなかった。いつも本を読んでるか、紗絢とお話しをしていて、同居してから一度も彩華が勉強している姿を見た事がないので、不安になって聞いてみた。
「学校でしてるから大丈夫だよ」
「お家で、しなくて大丈夫なの?」
「うん♪今までもお家でした事ないし」
(そうなの?でも彩華ちゃんの通ってる学校って、確か進学校だよね?それもかなりランク高かったはず)
「彩華ちゃんの通ってる学校って、確かかなりランク高かったよね?」
「そうなの?」
「そうなの?って、知らずに通ってたの?」
「うん♪」
「うん♪って、普通の学力じゃ通えないレベルだよ!私じゃ絶対無理だよ!何であんなレベル高い高校選んだの?」
「女子校だから、私共学嫌だから女子校しか考えてなくて、近いのあそこしかないから、だからあそこ受けたら、受かったから通ってるんだよ」
紗絢は思った。世の中は何故こんなに不公平なんだと、彩華は、美人でスタイルが良くて、尚且つ頭まで良いのに、私は顔は多分普通で、スタイルは残念で頭も平均位ときている。何故なの?
神様は酷いと神様に怒りをぶつけていた。
「大丈夫なら良いんだけど」
「うん。テスト返ってきたら見せるね」
「昇進試験終わったら、見せてもらうね」
彩華は、ニコニコと「楽しみにしててね♪」と言っていた。紗絢は、彩華の心の傷が少しは癒えてるのかなと考えていた。
そうだったらいいなと、心から思った。
彩華との約束通り、今日は紗絢の布団で一緒に寝る。彩華は幸せそうに暖かいねと言いながら、くっついてくる。
「でも、やっぱり少し狭いね」
「うん。でも幸せだからいいの」
本当に幸せそうに、彩華はこちらを見つめながら、微笑んでいる。彩華が幸せなら、私も嬉しいから狭い位何て事ないよね。
彩華は、幸せのあまりつい自分の気持ちを口走っていた。
「本当に幸せ。紗絢さん大好き」
「彩華ちゃん何?ごめん聞こえなかった」
運良く紗絢には聞こえていなかった。
「な、何でもないよ。お休みなさいって言ったの」
「うん。お休み彩華ちゃん」
「お休みなさい、紗絢さん」
彩華は、ハァ~と小さく溜息をつく。紗絢への告白は、もっとちゃんとしたいと考えていたから、紗絢に聞こえていなくて本当に良かったと思うと同時に自分の臆病さが嫌になった。
(紗絢さん、私が隣で寝てもドキドキしないのかな?あと私に抱きついても、いつも普通にしてるし、私は心臓が飛び出る位にドキドキするのに、やっぱり私の事なんとも思ってないのかな......)
彩華は寂しくなった。
でも今日は、本当に嬉しかった。彩華の我が儘を聞いてくれたから、本当に嬉しかったし幸せな気持ちになった。
この1ヶ月間、彩華は我慢していた。住まわせてもらってるからと、我慢する事には慣れていたから、紗絢に迷惑を掛けたくないからと自分の気持ちを偽って我慢してきた。
紗絢に嫌われたくないから、嫌われるのが怖くて、だから良い子でいないと駄目なんだって、でも夕食後の紗絢の話を聞いたら、寂しくて、悲しくて我慢出来なかった。
二週間も、紗絢の帰りが遅いなんて、考えたら寂しくて、紗絢を困らせたくないのに、寂しいと口走っていた。
我が儘を言ってしまった。紗絢に嫌われてしまう。そう思ったのに紗絢は優しく抱きしめて、今日だけだよと言いながらも、彩華の我が儘を聞いてくれた。
紗絢が居てくれたら、過去の辛い事を忘れられた。
両親の事、学校の事を考えないで済んだ。
実際紗絢と暮らしてからは、殆ど考えなくなっていた。
紗絢を見ると、寝息をたてて寝ていた。
紗絢を見ていると、私本当に紗絢さんの事を愛しているんだと感じると同時に思いを伝えられない臆病な自分が情けなかった。
(紗絢さん、好き!大好き!)
彩華の中で、紗絢への思いは大きくなっていくばかりだった。
「う~ん」
紗絢が、寝返りを打って彩華の方を向いた。紗絢の寝顔が目の前にあった。
(紗絢さんの顔が、こんなに近くに!)
彩華の中で、紗絢にキスしたい気持ちが芽生えた。本当は、紗絢と恋人になってからと思っていた。
(でも、紗絢さんと恋人になれるとは限らないし、だから......)
寝ている紗絢に、そんな事したら駄目と言う自分と恋人になれるか、わからないんだからキスしてしまえと言う自分が攻防を繰り返す。
紗絢の柔らかそうな唇が目に入る。
「!!」
(キスしたい!駄目!キスしたい!駄目!キスしたい!キスしたい!キスしたい!)
気付いたら、彩華は、紗絢の唇に自分の唇を重ねていた。触れるだけのキスだったけど彩華の心臓は飛び出さんばかりに 、ドキドキしていた。
(私、紗絢さんにキスしちゃった!)
幸い紗絢は、目を覚まさない。
(もう一回だけいいよね?)
(紗絢さん大好き!愛してます!)
そう心の中で呟くと、彩華は再び紗絢の唇に自分の唇を重ねて、キスをした。さっきよりも長いキスだった。紗絢には、内緒の秘密のファーストキスだった。
翌日早速音先輩による、勉強会がスタートした。音先輩は容赦なかった。
「黒崎さん、あなた覚える気あるの!」
「すいません!」
「謝る暇があったら、しっかり覚える!」
「はい!」
紗絢は、初日からビシバシとしごかれた。
最初の数日は元気があったが、二週目になるとさすがに厳しくなってくる。
いくら紗絢が、若いとは言え毎日23時近く迄勉強会をして帰宅したら、日付が変わっていた。それでも、彩華に心配を掛けまいと笑顔でいた。
そんな紗絢を見ていると、彩華は何も出来ない自分がもどかしかった。
休みの日も、紗絢は家で勉強していた。
「ごめんね。彩華ちゃん、相手出来なくて」
「それは、仕方ないけど、紗絢さん少し休まないと倒れるよ」
「大丈夫、大丈夫」
紗絢は、大丈夫と言うけど、とても大丈夫そうに見えない。この二週間でかなり窶《やつ》れた感じがする。
それも当然だった。紗絢は、仕事から帰って来てからも、自宅で勉強していた。
睡眠時間は、毎日2時間位で、昨日は帰って来てから、一睡もしないで勉強していた。
「少しで、いいから寝ないと本当に倒れるよ。私起こしてあげるから、だから」
彩華は心配で、紗絢が倒れるんじゃないかと不安で泣きそうな顔をしている。
「エヘへ、私可愛いかな?」
疲労と睡眠不足、そして試験のプレッシャーからおかしくなり始めている。
「紗絢さん!」
彩華は、さすがにやばいと思って、大きな声を出していた。それでも紗絢は、どうしたの?って顔している。
「紗絢さん!そんな状態じゃ受かるものも受からないよ。体調を万全にしないと!だから少しでいいから休んでよ!」
彩華は、紗絢の前に座ると泣きながら必死に訴えていた。
彩華の必死の訴えが通じたのか、紗絢は彩華を見ると正気に戻ったのか「ごめんね」と謝る。
紗絢は、彩華の涙でやっと気づいた、彩華を守りたいと悲しませたくないと思っていたのに、昇進試験の事で頭が一杯になってしまいその結果彩華に心配を掛けて泣かせてしまったのだ。
寂しいけど、昇進試験終わるまで我慢するからと言ってくれたのに、必死に寂しさを我慢してくれていたのに、私は......私は......寂しい思いをさせただけではなくて、心配まで掛けた挙げ句に彩華を。
紗絢は(私、何してるんだろう、彩華ちゃんを泣かせて......)自分に腹が立った。
「彩華ちゃん、ごめんね」
紗絢は、それ以上言葉を続けられずに涙を零す。
「私は、まだ働いた事ないからわからないけど、紗絢さんにとって試験が大事なのは、わかるけど身体壊して試験受けれなかったら、今まで頑張ってきたの無駄になっちゃうと思うから、だから少しでいいから休んでほしいの」
紗絢は、こくんと頷く。
「紗絢さん、膝枕してあげるから、こっちに来て」
紗絢は、頷くと素直に彩華に膝枕してもらうと、すぐに眠りに落ちた。
そんな紗絢の頭を撫でながら、彩華は紗絢を優しく見つめながら、「紗絢さん、いつもありがとう。私の為に本当にありがとう」と呟きながら紗絢の頭を撫でていた。
紗絢は、温かくて優しくて心地よい感覚で目を覚ました。
「紗絢さん、目が覚めたの?」
「あれ?彩華ちゃん?」
真上に彩華の顔が見えて、何故だろうと覚醒しきってない頭で考える。
「紗絢さん、凄く疲れてたから、私の膝枕で寝てもらったんだよ」
膝枕?そう言われると枕と思っていたが、枕にしては、温かくて気持ちいい。
「えっと、もしかして、ずっと膝枕してくれてたの?」
「うん♪」
「ごめんね。重かったよね」
そうは、言うものの彩華の膝枕が、気持ち良くて、中々頭を上げられない。
「大丈夫だし、紗絢さんの可愛い寝顔が見れて嬉しかったし」
可愛いと言われて、恥ずかしくなり顔を背けようとしたが、彩華の手で顔を押さえられてしまう。
「あの?彩華ちゃん?」
何故か彩華は、うっとりとした顔で、紗絢を見つめている。その瞳は、僅かに潤んでいるように見える。
(紗絢さんとキスしたいよ!でも目を覚ましちゃったし、寝てる時にすれば良かったかな?でもキスしたいよ!)
彩華の顔が近づいて来る。
さすがに、目が覚めた!
「彩華ちゃん!どうしたの?彩華ちゃん!」
その声で、彩華はハッとなって、紗絢の顔から、自分の顔を遠ざける。
「彩華ちゃん、どうしたの?」
「な、何でもないの」
「ならいいけど、膝枕ありがとうね。彩華ちゃんの膝枕気持ち良くて、安心して寝れたよ」
「良かった。いつでもしてあげるからね。だから言ってね」
「ありがとう」
そう言うと、紗絢は起き上がって、キッチンに飲み物を取りに行く。
(絶対変に思われたよね!どうしよう......嫌われたかな?)
彩華が、悩んでいると、紗絢が飲み物を持って戻ってくる。
「はい、彩華ちゃん」
彩華の分の飲み物も、持ってきてくれたらしく渡してくれる。
「ありがとう。あの紗絢さん?」
紗絢は、どうしたの?って顔をしながら持ってきた飲み物を飲んでいる。
彩華も、紗絢が持ってきた飲み物で喉を潤すと、さっきの事を聞く。紗絢に嫌われてないか確認せずには、いられなかった。
「あの、私の事嫌いになってない?」
「私が彩華ちゃんを?どうして?」
紗絢は、意味がわからないと言った感じで聞き返す。
「だって、さっき急に顔を近づけたから、変な子って思われて、それで嫌われたかなって......」
「ちょっと、びっくりはしたけど、そんな事で嫌いになんてならないよ」
「本当に?」
「本当だから安心して」
そう言うと、紗絢は「私は、最後の追い込みするから、彩華ちゃんは、今からでも予約取れる温泉でも探してね」と言うと、再び勉強を始める。
彩華は、紗絢に嫌われてないとわかると安心して、紗絢に言われた通り温泉宿を検索し始めた。
紗絢の昇進試験の日。
彩華は、紗絢の帰りを待ちながら、そわそわと落ち着かなかった。
(紗絢さん、試験どうだったかな?大丈夫かな?)
彩華が心配しても、どうにもならないのだが、心配せずにいられなかった。
当の本人は、朝出て行く時に「帰ってきたら、彩華ちゃんのテストの結果見せてね」と言って、普通に出勤して行った。
彩華が、落ち着かず部屋の中を徘徊していると、扉の開く音が聞こえて「ただいま~」と紗絢の声が聞こえた。
彩華は、リビングの扉を開けると開口一番に「試験どうだった?」と聞いていた。
「彩華ちゃん、ただいまにはお帰りなさいだよ」
「お帰りなさい」
彩華が言うと、紗絢はヨシヨシと彩華の頭を撫で撫でする。
「頭撫で撫では、嬉しいけど試験どうだったの?」
「どうだろう?」
紗絢が、サラッと答える。
「どうだろう?って、あんなに頑張ったんだから、手応えとか」
「やれる事はしたから、後は結果を待つだけだから」
「そうだけど......」
彩華は、納得いかないと言った顔をしているけど、本人が結果を待つだけだからと言う以上何も言えなかった。
「私の事は終わり。次は彩華ちゃんのテストの結果見せて」
「うん」
そう言うと、彩華は鞄からテストの結果の書かれた用紙を取り出して、紗絢に手渡す。
紗絢は、手渡された用紙を見て目を見開いてしまう。全ての科目が、ほぼ満点で結果は学年一番とある。
紗絢は、この子どうなってるのと思った。学校の授業を聞いて、後は全く勉強していないのに、何故ほぼ満点で学年一番なの?
覗けるなら、彩華の頭の中を覗いてみたいと思った。
彩華は、エヘへ凄いでしよ。私凄い?私偉い?褒めて、頭撫で撫で撫でしてと言った顔で紗絢を見ている。
紗絢は「彩華ちゃん、おいで」と言うと手招きする。
彩華は、期待に満ちた瞳をさせて紗絢の前まで行く。
紗絢は、彩華を抱き締めると「彩華ちゃん凄いね。頑張ったね」と言って、彩華の頭を撫でる。
彩華は、気持ち良さそうに目を細めている。紗絢は、彩華の頭を撫でながら幸せだなぁ~と感じていた。
夕食後、紗絢から嬉しいお知らせがあった。
「彩華ちゃんにいいお知らせだよ。来週の金曜日有給取れたから、彩華ちゃんが探してくれてた、温泉宿を予約しました~」
彩華は、本当に!と言った顔をしている。
「だから、今週末に旅行に必要な物を買いに行こうね。久しぶりだしお買い物」
彩華は、本当に嬉しそうにやったーと万歳している。そんな彩華を見て紗絢は微笑む。
(彩華ちゃん、あんなに喜んでくれて、頑張って本当に良かった。)
昇進試験の為に、ずっと寂しい思いしたから、これからはしっかり彩華の相手をしないと、少し位なら我が儘も聞いてあげようと紗絢は思った。
布団に入ると紗絢は、すぐに眠りについた。今まで頑張ってきた分の疲れと、試験が終わりプレッシャーから解放されて、疲れが一気に出てしまった。
そんな紗絢の寝顔を見ながら、彩華は紗絢に感謝していた。
(紗絢さん、本当にお疲れ様でした。そして、約束通りに旅行まで、本当にありがとう。紗絢さん)
いつも、彩華の為に頑張ってくれてる紗絢に、彩華は本当に感謝していた。
寝ている紗絢に「おやすみなさい」と小声で言うと、そっとキスをして彩華も眠りについた。
週末、二人は以前来たショッピングモールで温泉旅行に必要な道具と新しい洋服を買って家に帰る。
「来週が待ちきれないよ~」
彩華が嬉しそうに言う。
「私もだよ。旅行なんて本当に久しぶりだから」
紗絢も嬉しそうである。
二人は、温泉旅行の話しをしながら家路についた。
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