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~彩華の笑顔と彩華からの告白~
紗絢が、自分の気持ちを素直に伝えてから、僅かだか、彩華に変化があった。
以前より俯いて、独り言を言う回数が減ってきたのだ。
そして、少しずつだが、自分の事を自分でする様になってきたのだ。
食事も、毎回ではないが自分で取れるようになってきていた。以前は、紗絢が食べさせないと食べようとしなかったのだが、最近は少しずつ自分で食べる様になってきていた。
紗絢は、そんな彩華を見ながら少しずつだけど、元の彩華に戻ってきているのかなと思う。
ただお風呂だけは、相変わらず紗絢が洗ってあげないと、自分ではしなかった。
紗絢は、甘えてるんだよねと思いながらも、ニコニコしながら、いつも洗ってあげていた。
自分の想いを伝えて、彩華と偽りの恋人から、本当の恋人になれたと紗絢は思っていたから、彩華の本当の気持ちはわからないけど、それでもいいと紗絢は思っていた。
自分の気持ちを素直に伝えられた事が、今は嬉しかったから。
紗絢は、彩華が秋冬物を持っていない事に気づいて、彩華を買い物に誘う。
いくら家から出ないとは言え、そろそろ半袖や七分袖では寒くなってきていたから。
「彩華、秋冬物買いに行こう」
「うん.......」
彩華は、本当は行きたくないけどと言った感じの顔をしながらも、うんと答える。
「そんな顔しないの。彩華、秋冬物持ってないし、そろそろ買わないとね」
彩華は別に必要ないしと、目で訴える。
「彩華が、風邪引いたら困るから、だから買いに行こうね」
彩華は、わかったと頷く。
買い物に行くのは、いいとして何処に行こうと悩む。
(ショッピングモールは、彩華が嫌だろうし、彩華の家族に会うかもしれないし)
悩んだ末に、電車に乗って郊外のアウトレットモールにした。
(ここなら、会わないだろうから安心して買い物できるし)
紗絢は、そう考えると早速彩華の洋服を買う為に、若者向けのお店に入って、洋服を選ぶ。
彩華は、ただ黙ってついて来ていた。
「彩華、これ可愛いよ♪こっちも」
紗絢は、はしゃぎながら彩華に似合いそうな洋服を選ぶ。
「彩華は、どっちがいい?」
彩華が答えないので、紗絢は自分が彩華に着てほしいと思う方を選んでいく。彩華の洋服のサイズはわかっていたので。
洋服を買った後は、二人でレストランに入って食事をする。ここでも、彩華は食べたい物を言わないので、紗絢は自分と同じお刺身定食を2つ頼む。
「彩華美味しいね♪」
「うん」
「彩華とのデート嬉しいな♪」
紗絢が嬉しそうに言うと、彩華は少しだけだけど、嬉しそうにする。
そんな彩華を見ていて、紗絢は少しずつだけど、元の彩華に戻ってきていると思っていた。
アウトレットモールでの、お買い物を終えて帰宅する。
紗絢が夕食の準備をしている間、いつもなら紗絢の側にいる彩華が、今日はずっと紗絢に買ってもらった洋服を握りしめながら、オルゴールを聴いていた。
(彩華喜んでくれたみたいで、良かった)
そう思いながら、夕食の準備をする。
隣で眠る彩華を見ながら(もう紅葉の綺麗な季節だよね。もう一度紅葉の季節に温泉行こうと約束したのに)と考えていた。
彩華と、初めての遠出で行った温泉での事を考えていた。
本当に楽しかった。あの時は、彩華がこんな風になるなんて、全く思っていなかったし、まさか彩華の事を愛してしまうとは、思っていなかった。
(やっぱり、まだ無理かな?)
紗絢は、駄目元で先生に聞いてみようと思いながら、彩華を抱きしめて眠りにつく。
次の日、早速病院に電話して先生に聞いてみる。
「良い気分転換になると思いますので、本人が嫌がらなければ、いいと思います」
そう言われたので、電話を切った後彩華に聞いてみる。
「ねぇ彩華?またあの温泉行こうよ。二人で、初めて遠出して行った温泉に、温泉の女将さんが、紅葉綺麗って言ってたよね。今紅葉綺麗な時期だから、予約取れたら行こうよ」
「?」
彩華は、不思議そうな顔をしている。
「うん!二人で行った温泉に行こう」
彩華は、どう答えたらいいのかわからないと言った顔をしている。
「予約取れたら行こうよ。私彩華とまた行きたいの、恋人として」
紗絢が、恋人としてと言うと彩華は、少しだけ嬉しそうにすると頷いた。
最近の彩華は、落ち込む事も減ってきたし、何より少しだけだけど、嬉しそうな顔をする回数が増えたと紗絢は思っていた。
だからこそ、二人の思い出の場所である温泉にもう一度行きたかったのだ。
「なら早速予約取れるか聞いてみるね」
そう言うと、紗絢は温泉の番号を調べて電話を掛ける。
来週なら、予約が取れるとな事で、予約をする。紅葉は見れそうで良かったと思いながら、彩華に来週予約取れたよと嬉しそうに伝える。
彩華は心なしか嬉しそうにしている。
紗絢は、そんな彩華を見ると、仕事を始める。来週の温泉の為にも、仕事を終わらせないといけなかったので。
温泉に行く前日の夜、紗絢は荷物を確認しながら鼻歌を歌っていた。
明日からの温泉旅行が、楽しみで仕方なかった。彩華と久しぶりの旅行が。
彩華が心を病んでしまった時には、考えられなかった。彩華とまた旅行に行けるなんて思わなかったし考えられなかった。
まだ彩華は、元には戻ってはいないけど、それでも遠出出来る位に状態が落ち着いてきている事が嬉しかった。
「彩華、明日からの、温泉旅行楽しみだね」
「うん」
彩華も、嬉しそうにしている様に見えた。
前回同様、電車とバスに揺られて2時間掛けて、旅館に到着する。
旅館に入ると、女将さんは二人を覚えていたらしく、「お久しぶりですね」と声を掛けてくれる。
「お世話になります」
紗絢が、そう答えると笑顔で「紅葉がとても綺麗ですよ」と教えてくれる。
紗絢は、早く彩華と紅葉が見たいと思った。部屋は前回と同じ二階のお部屋だった。
部屋に案内されるまで、前回同様に仲居さんは(この二人って、やっぱり.......)って顔で、紗絢達を見ていた。
部屋に入ると、紗絢は彩華の手を握りながら、窓辺へと行く。
「彩華!紅葉綺麗だよ!」
紗絢は、興奮気味に話す。
「うん、綺麗」
彩華も綺麗と呟く。
紗絢は、彩華を自分の方に振り向かせると、彩華に口付けをする。
「エヘへ、綺麗な紅葉をバックにキスしたかったんだ~」
と嬉しそうに彩華に伝える。
彩華は、照れながらも嬉しそうにしている。
紗絢は、この旅行が彩華が笑顔を取り戻す一つのキッカケになってくれたらと思っていた。彩華が笑顔を取り戻してくれるなら、自分に出来る事は、何でもしたいと、何でもするんだと思っていた。
早速二人で、温泉に入りに行く。
最近の紗絢は、彩華の裸を見ると、何故か無性にドキドキしてしまう事があった。
今日もそうだった。
(前は大丈夫だったのに、私どうしたんだろう?)
あまりにも、ドキドキするから音に相談した事があった。音からは、好きな人の裸だからでしょと解答があった。
そこで、紗絢は、私ってHなんですかね?と聞いたら、黒崎さんは、女の子の裸を見て欲情するHな人だと思いますと何故か敬語で返事が来て、私変なのかなと焦ってしまう。
更に黒崎さんは、女の子を抱きたいと思っている変態さんなんですねと来て、本気で焦ってしまう。
私変態なんですか?と聞くと、冗談よと好きな人に、そういう気持ちを抱くのは普通の事よと返事が来て、安心した。
彩華の裸を横目に見ながら、私やっぱり彩華に対して、そういう気持ち抱いているんだよね。と考えていた。
でも今の彩華には駄目だよねとも考えてしまう。
紗絢は、悶々としながら着替える。
「気持ちいいね」
「うん」
「紅葉綺麗だね」
「うん」
二人は、温泉に浸かりながら、紅葉を眺めていた。
本当に綺麗な紅葉だと思った。紅葉を見れただけで、来て良かったと思った。
紗絢は、隣で紅葉を見ている彩華を見ながら、(私、やっぱり彩華を抱きたいのかな?彩華とそういう関係になりたいのかな?)と考えていた。
恋人にそういう感情を抱くのは、普通の事であるが、恋人のいなかった紗絢にはわからなかった。
普通のカップルが、どのタイミングで、そういう関係になるのか。
そんな事を考えている、紗絢の横顔を彩華はただ眺めていた。紗絢は、彩華が自分を眺めている事に気付かずに、考えていた。
彩華は(私とそういう関係になるの嫌じゃないかな?)と考えていた。
悶々としたまま、紗絢は部屋に戻った。
本当は、彩華とそういう関係になる事を望んでいたけど、彩華が笑顔を取り戻すキッカケになればと思って、温泉に来たのに、自分が来たかったのもあるけど。
(私が、彩華とそういう関係になりたいって、正直に伝えて、もし彩華が二度と笑ってくれなくなったら)
そう考えると、紗絢は怖かった。彩華の笑顔がもう一度見たいと思っているのに、それを一番に考えないといけないのに、私は彩華に対して、何て事を考えているんだろうと思うと、どうやら沈んだ顔をしていたみたいで、彩華が不安そうに抱きしめてきた。
「彩華?」
紗絢は、自分がそんな顔をしていたとは思っていないから、寂しくなったのかなと思った。
「寂しくなったの?大丈夫だよ。私は、ずっと彩華といるから」
「紗絢、寂しそうな顔してたから」
「えっ?」
「紗絢、不安そうな顔してたから」
彩華が不安そうに言う。
彩華の笑顔が見たいのに、心配かけて不安そうな顔をさせてしまうなんて、私何してんだろうと思い、自分の邪な考えを横に置くと笑顔で彩華に大丈夫だよと伝える。
突然彩華が、頭を撫でてくれる。
「私が寂しい時、紗絢いつも頭撫でてくれるから」
彩華は、恥ずかしそうに呟く。
彩華が頭を撫でてくれるなんて、彩華が心を病んでからなかったから、驚きと彩華良くなってきていると思うと嬉しくて、紗絢の頬を一滴の涙が零れ落ちた。
「彩華、ありがとう」
彩華の病状が良くなっていると思うと、嬉しくて仕方なかった。
「紗絢、私の事好き?」
突然彩華が聞いてきた。前にも、彩華が心を病んでしまった日に聞かれたなと思いながら、今度は心からの言葉を伝える。
「好きだよ。私は彩華を愛してるよ」
「嬉しい」
そう言うと彩華は、笑顔を見せた。久しぶりの笑顔を。
「彩華、あなた笑顔.......」
紗絢は、驚きと嬉しさのあまり言葉を続けられなくなってしまった。
心を病んで以来、彩華から笑顔が消えてしまったから、どうしたら笑顔になってくれるのかわからずに、ずっと悩んできた。
どんなに頑張っても、今まで通りに接しても、彩華は笑顔を見せなかったのに、なのに彩華が笑っている。笑顔を見せている。
「彩華、やっと笑ってくれた.......笑顔になってくれた.......」
紗絢は、それ以上は無理だった。ただ子供の様に泣きじゃくっていた。
「紗絢が、ずっと側にいてくれたから、私ここに来て、紗絢と過ごした楽しかった事を思い出したの」
紗絢は、泣きながら頷く事しか出来ない。
「それでね、そしたら、自然と笑えたの。ずっと暗い闇の中にいた気がするの。紗絢の言葉は聞こえてたけど、夢の中での事に感じてたの。でも光が見えた気がして、気づいたら隣で紗絢が不安そうにしてて、それで笑って欲しくて、気づいたら紗絢の頭撫でてた」
紗絢は、何も言えない。嬉しいのに言葉が出てこない。
「それで、紗絢に好きって聞いたの。紗絢が愛してるって言ってくれて嬉しくて、気づいたら笑顔になってたの。紗絢ありがとう、そして、心配ばかり掛けてごめんなさい」
「いいの、全然いいの。私彩華を愛してるから、だから彩華が笑顔になってくれた事が嬉しいから、だから.......」
彩華は、紗絢の顔を自分に向けると真剣な眼差しで話す。
「紗絢、私紗絢と初めて会った時から好きでした。私は紗絢を愛しています。私と付き合って下さい」
「はい」
紗絢は、素直に頷く。紗絢も彩華を愛しているから。
二人は、やっと偽りの恋人から本当の恋人になった。
「紗絢、キスして」
紗絢は、何も答えずに自分の唇を彩華の唇に重ねていた。
紗絢は、幸せだった。彩華が笑顔を見せてくれたから、彩華の自分への想いが偽りじゃないと知ったから。
紗絢は、彩華の布団に入り彩華に抱きつきながら聞いてみる。
「彩華、私の何処を好きになったの?」
「う~ん。そうだね、一目惚れだからとしか言えないよ。本当に初めて紗絢に会った瞬間に好きになってたから」
「なら、今は私の何処が好き?」
「何処って、どういう意味で?」
「えっと、顔とかそういう意味かな」
彩華は、う~んと言うと考え出す。
「そういう意味なら、可愛い胸かな」
「あぅ、可愛いって、どうせ小さいですよ~」
紗絢は、拗ねるふりをする。彩華とこうやって会話出来る事が嬉しかったから、ずっと彩華は、うんとかしか言わなかったから。
「そんな風に可愛く拗ねる紗絢も好きだよ」
彩華が、綺麗な顔を幸せそうにして言うので、紗絢は「あぅ」としか言えなかった。
「でも一番好きなのは、紗絢の優しいところだよ。ずっと私を支えてくれて、本当に感謝してるの」
「彩華」
「本当にありがとう紗絢。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彩華と紗絢は、それぞれに頭を下げる。
「紗絢は、いつから私の事好きになったの?」
突然ふられて考えてしまう。気づいたら好きになっていた。彩華を愛していたから、素直に伝える。
「いつからって言われると困るんだけど、気づいたら好きになっていたから」
「そうなんだ。なら私の何処が好きなの?やっぱりこの胸かな♪」
自分で、胸かなと言うので、紗絢は考えてしまう。考えると横に置いておいたはずの考えが、再び顔を出してしまって、顔が真っ赤に染まっていく。
「どうしたの?顔が真っ赤だよ」
「な、何でもないよ」
明らかに動揺している紗絢を見て、彩華は紗絢どうしたの?と考える。
「それで、私の何処が好きなの?」
「ぜ、全部だよ。顔も体も、その可愛い笑顔も全部だよ!」
動揺のあまり、声が大きくなってしまう。
紗絢の答えを聞いて、彩華は嬉しそうにしている。
そんな彩華を見て、紗絢は本当に良かったと思う。
「私、彩華の笑顔大好きだよ」
「私も紗絢の笑顔大好きだよ」
二人は、自然と唇を重ねていた。
幸せな時間が二人を包んでいた。
本当に幸せな時間が、今までの辛さを全て忘れさせてくれる。
二人は、抱き合ってキスをしたまま眠りついた。本当に幸せそうに。
次の日は、二人で前回同様観光をする。
今回は恋人として、仲良く手を恋人繋ぎしながら。
彩華は、本当に嬉しそうにしている。
一方紗絢は、前回の自分の失態を思い出してしまい、中々顔をあげられない。
「紗絢どうしたの?」
「な、何でもないよ」
彩華は、何かを思い出した様に、ニヤリと微笑むと「さーちゃん、アイス買って欲しいの?」とわざと紗絢に言う。
「そ、それは禁止!忘れてよ」
「え~、さーちゃんって可愛いのに、もう一回ママって言って欲しいな~」
「言わない!絶対言わないから!」
「言ってよ~言って!言って!ママって言ってよ~」
「い、言わないから」
彩華が、悲しそうな顔で「言ってよ~」と言ってくる。彩華の悲しそうな顔には弱い。
「い、一回だけなら」
「やったー」
「ま、ママ」
彩華が、喜んでくれるならと思ったのが間違いだった。結局観光を終えて、旅館に戻ってからも言わされてしまった。
「あ、あの彩華」
「ママだよ!」
「ま、ママ、そろそろ彩華に戻したら駄目かな?」
「駄目!」
ピシャリと撥ね付けられてしまう。
「家に帰るまでは、ママ!わかった!」
彩華が笑顔になったのは、嬉しいけど、ママは勘弁してほしいと紗絢は思う。
「紗絢、返事は!」
「はい.......」
紗絢は、諦めるしかなかった。ここで無碍に断って、また笑わなくなってしまったらと考えてしまって。
「なら、早く言ってよ~」
「ママ」
そう言うと、彩華は嬉しそうに「紗絢は良い子ね~」と幸せそうに言っていた。
結局温泉から帰ってくるまで、紗絢は彩華をママと呼ぶしかなかった。
温泉から戻って来た後も、彩華は薬だけは飲んでいた。元に戻った様に見えても、いつ症状が出るかわからないので。
相変わらず学校は、休学していた。学校に戻っても、一人だからと彩華が行くのを拒んでいたのと、学校に通い始めて、また症状が出たらと思うと、学校に行かないと駄目だよとは言えなかった。
紗絢は彩華が、もう少し落ち着いてからでもいいと思った。
紗絢は、温泉に行って本当に良かったと思った。ママと呼ばされ続けたのには、困ってしまったが、彩華の笑顔を見れた事、そして本当の恋人になれたから。
紗絢は、相変わらず自宅で仕事をこなしていた。
温泉以来、彩華は以前の彩華に戻りつつあるけど、まだ元に戻った訳ではなかったし、紗絢自身が、彩華の側に少しでも居たかったから。
紗絢は、彩華と恋人になれて幸せだった。
幸せだったけど、彩華を抱きたい、彩華に抱いて欲しいという自分の考えに悩まされていた。
答えが出ないのに、ずっと悩んでいた。
そんな紗絢の姿を、彩華は心配そうに見つめていた。
(紗絢、何を悩んでるの?どうして言ってくれないの?)
紗絢が、どうして相談してくれないのかと彩華も悩んでいた。
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