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とは言っても王子様は王子様。
伯爵様が戻られてお話を終えられるとお城へと帰られてしまう。
王子様がお城からきた人に報告だけで帰りたくないとしても連れ帰られる。
勝手に出てきたからよけいにといった感じで。
お城では数日、王子様は行方不明となっていただろう。
話し合うことなんてとてもできそうにない。
近くにいらっしゃるときは近く感じるけれど、本当に遠い方。
ただ、王子様を連れてきたのはノア様。
ノア様がその力で私を追わないでくれたなら、王子様もこられることはない。
ノア様からその力を奪えるならいいけど、奪えるでもないし。
ノア様が王子様に頼まれたとき、それを断ってくださればいいけど、断ってくださる気がしない。
王子様もノア様も私を追いかけてこられたときには旅の装いで貴族や王族と一目でわかるような華美な装いでもなかった。
王子様の従者かのように王子様についていかれるだろう。
うーんと1人でどこかにいくにはどうすればいいか悩んでいた。
王子様を呼んでお話すればいいのかもしれないけど、私を追いかけないでくださいと話すために呼ぶなんてどうかとも思う。
とりあえずは私も1度家に戻って、旅の目的と目的地をちゃんと決めたほうがいいかなと考えてみる。
1人で旅をして誰かに騙されるのはこわいけど。
伯爵様のお屋敷で普通にお世話になってしまっている今がおかしい。
ということで、奥様とお話をしてから出ていこうと荷物を手にして部屋を出た。
旅のための荷物だけど軽装と言われたことを思い出す。
服や靴ももう少し考えたほうがいいのかもしれない。
山登りをすることはなくてもどれだけ歩くことになるかもわからないし丈夫な革の靴がいい。
服も転んだり破れたりするかもしれないし、ローブが欲しいところ。
宿がない道をいって野宿となるなら、せめて毛布が欲しい。
手持ちの食料も必要。
少しは旅について勉強できたかもしれない。
奥様を探して屋敷の中を歩いて居間へ向かっていると、お屋敷を出ようとされるノア様のお姿が見えた。
どこへいかれるのだろう?
声をかけたい。
帰りますと挨拶をしたい。
今を逃すとノア様が帰られるまで動けなくなりそう。
ノア様は玄関を出ていかれて、私は慌てて走ってノア様を追いかける。
階段をかけおりて、玄関の扉を開けて外を見る。
きょろきょろとまわりを見てもノア様はもういらっしゃらない。
まだそんなに遠くへはいっていらっしゃらないはず。
ノア様を呼んでみよう。
ノア様、ノア様。
ノア様ーっ。
ここに戻ってきてください。
なんて思っていたら。
『うるさい。なんだよ?』
そんなノア様の声が聞こえて、あたりを見回す。
ノア様?
声は聞こえたのに姿は見えない。
『だからなに?』
「なんで声だけ聞こえるのっ!?」
思わず声に出していた。
確かに聞こえる。
でもどこにもノア様はいない。
『おまえが声をかけてくるから応えてやってるんだろ。今はそっちに戻りたくない。なんの用?』
これは幻聴ではないと思う。
思うのだけど、どうしても確信が持てなくてこわくなる。
不安で泣きそうになっていたら、ノア様が目の前にいきなり出てきた。
なにを言えばいいのかもわからなくなる。
言いたいことはある。
あるけど、わからない。
「気軽に呼ぼうとするな。俺は俺で忙しいんだよ」
「……さっきの声、なんですか?」
なんとか聞けた。
震えて怯えながら。
「呼ぶから応えてやったんだろ。何回言わせる?」
「ノア様、そこにいなかったのにっ!?」
「聞こえたから応えてやった」
遠くにいても聞こえるってこと!?
私の考えていることが!?
いつから!?
なんだかとても恐ろしくも思って、ノア様の顔をまっすぐにはとても見れなくなった。
聞かれたくないこともノア様には聞こえてしまう?
だとしたら、私はいったいなにを考えていればいいのか。
心を覗かれているようでものすごく恥ずかしいというか恐怖。
「おまえが声をかけてこない限りは聞こえないから安心しろ」
なにも言ってないのにノア様はそんなふうに話してくださる。
それでもこわい。
馬鹿だ馬鹿だとノア様のことをひたすら思っていたあれも聞こえていたらと思うと目も合わせられない。
私はいったいなにを考えて生きていけばいいのか。
「目の前にいるなら口に出して言ってもらわないとわからないからな?あと、おまえが呼ぶから聞こえただけで、俺が聞こうとしたわけじゃないからな?」
「……言葉で応えないですぐにきてくだされば知らなかったのに…」
「戻りたくないって言ったよな?馬に乗っていたところを呼び戻されても馬をおいてくることになるから嫌なんだよっ」
「クロト様は連れてこれるのにっ?」
「あれも馬どこ消えた?ってなったんだけど。クロトを連れていけたのは魔女の契約じゃないのか?俺が運べるのはおまえに血をわけられた者だけだと思う」
「馬に血をわけなきゃ…」
すぐにノア様がこれない理由があるなら、それを排除しないと。
思いがけない変な力で心を覗かれてしまう。
なによりも恐ろしい。
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