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「声はなにを言ってる?」
「殺す殺すと呪いの言葉ですよっ!なんで誰も聞こえないんですかっ!?雷も俺を目掛けて落ちてきてかのようで、近くの木が丸焦げになったっていうのにっ!」
ハロルドさんは必死で訴えかけてくれて、私は耳を澄ましてみる。
聞こえない。
大雨の音ばかり。
すごい豪雨で沢は川になっている。
王子様も聞こえないらしく、兵士やノア様や伯爵様に視線をやられる。
「聞こえない…ですよね?」
兵士はまわりの反応を見るように聞いて、みんな頷く。
「俺にだけっ!?って、またきますっ!逃げないとっ!」
「シギュンの力の範囲外にいけばいいとは思うけど。……沢の向こうくらいか?雨が降り出したのは」
王子様は仰って、ハロルドさんは大雨でもまた雷に打たれてもいいとでもいうように走って逃げ出した。
「私もいってまいりますっ!」
護衛するかのように兵士の1人がハロルドさんについていった。
大雨でけぶって見通しはかなり悪い。
「私もいってきていいですか?クロト様」
「リルはこっちだろ。いくなら俺?」
ノア様は王子様に確認をとるように聞かれる。
「だな。いってきて」
王子様は軽く手を振ってノア様はハロルドさんと兵士の後を追われた。
すぐにノア様の姿も雨の中に見えなくなって不安になる。
リラの加護があればいいのだけど。
「何事もなく、とはいきませんな」
伯爵様は王子様に仰る。
「まぁ想定内。ロイヤルブルーでもブルーでもない血はどちらにもすぐに揺れ動く不安定なものなのかもな。どちらかと言えば、ハルがリルに心身共に従僕しているとは言い難いからとも思えるけど」
「ノアは従僕していますかね?」
「どうだろうな」
無理やりリラに引き寄せたようなものだから、私にもわからない。
それでもノア様は私に殺せと仰るくらい、その命を私に預けられていたとは思う。
「リル様、私も従僕にしていただけませんか?」
残された兵士は怯えたように言ってくれる。
しろと言われても私にはできない。
血で縛るような呪術でしか従僕にする方法がわからない。
「シギュンさんにはまだ勝てないようなので、あまり意味がないと思います」
「リラの加護があるなら私も欲しいですよっ!」
なんて無理やり従僕にしろと迫ってきてくれると、私は王子様と伯爵様の背中に隠された。
無言で威圧。
兵士はおとなしくひいてくれる。
なにかすごい権力者に守られてしまっているのがその背中でわかる。
なんでこうなったのか。
そんなことをしていると外の雨は静かになっていって、かわりのように霧が残る。
霧で森の奥、ハロルドさんが逃げ出したほうになにがあるのかはわからない。
無事にハロルドさんがシギュンさんの範囲外に逃げ出せたから雨はあがったと思えばいいのか。
「近づいてはいけない範囲がだいたいわかったのなら、もうここに長居する必要はないのではありませんか?」
私はハロルドさんのところへいきたくて王子様に聞いてみる。
「霧の中を動くのも危険だ。あっちはノアに任せた。ノアの血は森を蘇らせたことから、本当にリラのものになっているとわかる。ここは蝙蝠の住処で埋め立てるのはよくないかもしれないけど、リルはここを埋めてくれ」
王子様に言われて、その手があったと私も思い出す。
シギュンさんの位置は動かない。
それを魂から破壊できたならいいけど、破壊もできそうにない。
できるなら急斜面の山の位置をもう少し森へと広げて大きく埋め立ててしまいたい。
掘らなければ範囲内には入れないというくらい。
結界をもっとシギュンさんに近寄ってつくってみては?なんて思って。
この洞窟の明かりを強くしてみると、蝙蝠たちがまたばたばた落ちてくる。
蝙蝠の駆除にきたわけでもないから、蝙蝠たちには外にいってと風で押しやって洞窟の外に出すと、血で呪術をかけながら、少しずつ洞窟の壁を増やす。
「リル様っ!声っ!声がっ!」
助けてというような大きな兵士の声がして、私は兵士を振り返る。
振り返ったときには、兵士はもうシギュンさんに操られたかのように剣を抜いて私に斬りかかってきていて。
王子様と伯爵様がそれを止めてくださる。
金属のぶつかりあう音。
「シリル、下がれ」
王子様は仰ると、本来の兵士の力でもなさそうなその強い剣を握った剣で弾いて、飛び上がった兵士を追って王子様も飛びあがられる。
人間なのに、人間じゃないことをまたされていらっしゃる。
伯爵様は私のそばで王子様が防ぎきれなかったものを防ぐ姿勢で兵士に向き合われている。
兵士に私を殺させようとしているらしい。
自分では動けない魔女。
蝙蝠たちがここにいるのは、魔女に操られないからかもしれない。
私は今のうちと、作業の続き。
人間の力では掘れないくらいのかたい岩に血をつけて術をかける。
シギュンさんの力が漏れないように。
弱まるように。
背中は王子様と伯爵様に守っていただいて。
何重にも重ねる封印をつくっている。
正しいやり方はわからないけど、なにもしないよりは役に立つと思いたい。
封印を簡単に解除されないように、術をかけようと新しい壁に血をつけるたびに、違う願いをこめる。
洞窟の入口まできたときには、王子様と兵士は外で。
兵士の動きは明らかに鈍くて、ノロノロした動きで、王子様は兵士を引きずって私から引き離して、また近寄っていったら引きずって引き離すという、なにか私がつくっているものの目安になりそうなことをしてくれていた。
気絶させるのは容易だけど、シギュンさんの力が届いているかいないかを見られている。
ある意味、兵士がかわいそう。
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