自然摂理と魔女の力

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好きなだけ嫌ってくれればいい。 私の気持ちは変わらない。 恋は呪いだ。 あなたを好きになったから、あなたに近づきたくて、私は魔法を覚えた。 後悔して、後悔して、嫌われて。 それでもふれようとするなんて馬鹿だ。 馬鹿なことをするそこにあるのは、あなたを好きな気持ち。 消えてなくなってくれない、胸の真ん中にある気持ち。 告白したのにノア様にはもう呆れたみたいな態度をされただけ。 悔しくも思うけど、それが当然のようにも思えたから涙を拭いまくって泣きやめた。 伯爵様のお屋敷につくと王子様がいらして出迎えてくださった。 村であったことは伯爵様が出された遣いからすでに話を聞いていらしたけれど、私とノア様は血を撒くために改めてお話をさせてもらった。 「うん。なにかしらしないと草原にもなりそうにないな、それ。沼にしてもいいけど」 「サンギーヌの呪いがかかった沼になりそうだからやめてくれ」 王子様の感想にノア様が言葉を返される。 死人が出る沼になりそうだから私もそんなのはやめてもらいたい。 「今まであの村で亡くなった人の墓地というのもそういえば見てないよな、あの村」 「…なかったな、そういえば。人骨の土台とか気味の悪いものもあったし墓がなさげ」 「そこらへん掘り返せば人骨が山ほど出てきそう。畑の肥料にされていたり」 「あの村で育った野菜がすべて未出荷っていうわけじゃないから下手なことは言うな」 ノア様は嫌そうに王子様の考えを止められる。 あるんだろうなとは思う。 私も口にしてしまったかもしれない。 それでもそんなものでは呪われることはないだろう。 あまり気持ちいい話でもないけれど。 あの原生林だって、いくつかの人骨という肥料がありそうではある。 「話が大きくなりそうではあるし、シリルだけに任せることもなく、国の調査は入るだろ。シリルの失態ともなるけど隠してやれそうにないな、これは」 王子様は人骨が埋まっているというお話はやめて、そういうお話をしてくれる。 「かばわなくてもいい。村は解体される。忌み地として広く知られて今後も多く活用されることがないほうがいい」 「まぁシリル伯爵、王の従兄弟になるし、俺がなにかを言うまでもなく、穏便になるように謀られそうではある。あと、あの森に血を撒くのに使った噴水に車輪つけたやつは沼になりつつある場所で使うには小回りもきかないし重くて効率悪いと思う。あれ使うくらいなら馬車から手動で水撒いたらいい。前回の教訓」 「馬車に乗せるとかは?」 「馬が何頭潰れるか。重いんだよ、あれが。兵士の筋トレにはなる」 筋トレ。 筋トレしたり、筋トレしたり、筋トレしたりのノア様の生活を思い出す。 筋トレしかすることがなかったのだろう。 王子様に言わせるとノア様は脳筋。 なんて思っていたら。 「ちょうどいいじゃないか。領内の兵士に筋トレさせればいい」 ノア様は仰る。 口を挟むつもりは最初からないけれど、なにかを言いたくもなって、なにも言葉は出てこない。 反省点のように王子様は仰ったというのに。 筋肉馬鹿。 私も言いたくなる。 なんでこんなのが王子様よりもいいなんて言えるのか。 えろ狼なところは王子様よりもひどいし。 馬鹿だし。 馬鹿だし、馬鹿だし、馬鹿だし。 言いたい。 いろんな恨みもこめて言ってしまいたい。 でも言わない。 ノア様に睨まれる。 嫌われてもいいけど牙を剥かれたくはない。 「非効率的。あまりの鈍さにおまえが嫌になるのがわかりきってる。あと、撒く水は沢の水でいいだろ。だからどうせやるなら、あのへんに疏水作ってしまえばいい。骨を掘り起こすのに掘るだろうし、骨を掘り起こすためじゃなく、疎水をつくるためとしておけば民にも嫌な目で見られることもない」 王子様は更に案を出されて、さすが王子様と思ってしまう。 ノア様は馬鹿だ。 馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。 密かに思っていただけなのに、ちらっと横目でノア様に見られた。 目を逸らして素知らぬ顔をしておく。 「あの水がどんな効能をみせてくれるのか確認にもなるしいいとは思うけど、森を蘇らせたみたいに一気にはいきそうにないだろ?エドをリラの一族とするなら一気にしてしまったほうがいいんじゃないか?」 「ベルミラだから大丈夫。王都以外でやるとリラを便利屋扱いされて他の地方からなにか依頼されそうだし。リラを狙ってサンギーヌにこられても困るし。リルが狙われなければいいともいかない。おまえやエドにもそこまで負担はかけられない。シリルが戻ったら俺からシリルに言ってやる。おまえはもう気にしなくていい」 気も使ってくれて、王子様は本当に頼りになる。 この国の未来は王子様がいればきっと安泰だ。 私が唆すかのように王子様をお城から離れさせるのは問題がありすぎる。 旅の続きは王子様とちゃんと話し合えたら、かもしれない。
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