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「下手に従僕つくるようなことはやめてくれ。おまえの馬と知らずに乗って馬だけ消えられて死人が出ることになりかねない」
「じゃあ、どうすればよかったんですかっ」
「さっさと用事を言え」
半分キレたら、ノア様も静かにキレられて何度も言ってるとでもいうように仰る。
何度も言われている。
知らない能力を見せられて私がそっちに気をとられただけ。
というか、ノア様、いろんな魔女の力を使われている。
私よりも立派にリラの一族のようだ。
「1度家に帰って旅支度を済ませたら旅に出ようかと思っています。お別れのご挨拶をしようかと…」
渋々と当初の予定だったお話をしたら、ノア様は呆れ顔で息をつかれた。
「それくらいの話で呼び戻そうとするな」
「だ、だって、いつ戻るとも言えないし、お世話にはなったし…」
「おまえがいないならクロトが追いかける。追いかけるときには俺の能力が使われる。俺もついていかざる終えなくなる。というのは、よく知ってるはずだよな?」
知ってる。
あの王子様が1度覚えた便利な力を使わないはずがない。
「………」
言葉がなにも出てこない。
これは永遠の別れにはなりそうにない。
王子様が私を忘れられるくらい多忙になられるか、私以外の興味を持てる女性を見つけられなければ私はどこにいても王子様とノア様というお2人に会うことになってしまうだろう。
ノア様だけなら……追ってはくださらないだろう。
そこを思うとどこか悔しくもなる。
ヴィクトワール様のお姿を借りた私を追って、いつもは出られることのないお城の催しに出られたという記憶があるから、よけいにどこか悔しい。
女性を追わない人でもない。
それでも追われることはないと思えるのが悔しい。
「理解はしたみたいだな。馬も戻ってきた」
ノア様は道の向こうから人を乗せていない馬が走ってくるのを眺められる。
馬は近くまでくると主を見つけたと言わんばかりに、ちゃんとノア様のそばにとまる。
ノア様は優しく馬の鼻先を撫でられると、また馬に乗ろうとされた。
「ノア様はどこにいかれるおつもりでしたか?」
「先の事件があった村。親父は城にいってるし、あっちの指揮は軍隊長がやってるだろうけど沼になっていそうだし、二次被害が起きかねない。おまえがやるような大きな力は使えないけど、魔女の力がもしも必要になったら俺の力でどうにかなるかもしれないと思って」
私は自分の力を持て余すくらいだというのに、ノア様は活用される。
だめだめな私の力は使えないものかもしれない。
それでもシギュンさんを封印したときは成功したとも思うし。
「それ、私もいきます」
お手伝い、なにかできるかもと思って言ってみた。
「おまえはわからなかったみたいだけど、あの村は死臭がひどいって言っただろ?こないほうがいい。あと掘り起こされた骨は領主である家の政策の失敗、恥ともなるもの。無関係の者が関わってくるな」
さくっとノア様は断ってくださって、ひょいっと軽々と馬の背に乗られる。
無関係。
突き刺さった。
そうだけど。
そうだけど認めたくない。
「の、ノア様のその力は私が与えたものでもあるので無関係とは言いきれないものになるかと思われますっ!」
「そうやって関わってるから俺の親たちに恩人どころか家族扱いされるんじゃないのか?俺が跡を継いでも継がなくても子供1人では…ということで養女か養子は迎えるつもりではあったみたいだし、リラへの信仰もあるし、おまえのほうも身寄りもないし、本当に養女にされるぞ?ついでに公女ではなくても伯爵家の令嬢になれば、クロトとの身分差も多少は埋まるからクロトと結婚は夢でもなくなるかもしれない。ま、ここはクロトにもおまえにもいいことかもしれないけど」
ノア様の義妹は少し嫌かもしれない。
私の複雑すぎる感情が生涯続きかねない。
王子様との結婚は私の希望でもない。
ノア様のお話をとめるように、ぺしっとノア様の足を軽く叩いた。
馬の背に乗られたノア様は高すぎて私にはひどく見上げる。
不満顔でノア様を見上げた。
「勝手についていくこともできるけど。連れていってください」
もう一度頼んでみた。
断られたら勝手についていく。
なにかあったときにはノア様が断ったからと理由をつけられる。
ノア様のせいにしてやる。
「……死臭が服につく。作業着か軍装に着替えたら連れていってもいい」
私が譲らないとわかったようで、ノア様はそう仰ってくださった。
「先に行かれていたら無理やり呼び戻しますからねっ?」
私はノア様にそんな言葉をおいて、急いで屋敷の中へと戻って、見かけたメイドさんになにか作業着になりそうなものはないか聞いてみた。
メイドさんはどうやら奥様に声をかけられたようで、奥様が作業着ならこれといったように、いつかノア様とハロルドさんを治療するときに使った服を出してくださった。
なにか作業をするのならとメイドさんは私の髪をまとめ髪にしてくれて、奥様は私の手荷物を準備してくださる。
とてもとても手際よくテキパキと。
……伯爵家の娘になってもいいとは思う。
奥様も伯爵様も優しくしてくださるから。
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