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「あ」
隣で妹が小さく声を上げる。
「見えた?」
「見えた!」
妹は星のようにキラキラと輝く瞳を僕に向ける。
「もうすぐ流星群だから、その時はもっともっとたくさん流れるよ」
僕は満天の星を指差す。その指先を追うように、妹は空に目を凝らす。さっきの一筋は偶然だった。一時間粘って、ようやく流れた光。
「ほんとう?」
「うん、本当だ」
「楽しみ」
妹は小さく歓声を上げた。
ネットの情報では、四日後が流星群のピークらしい。その日を僕と妹のちぃ――千津は楽しみにしていた。
ベランダに冷たい風が吹く。ちぃがくしゃみをした。
「寒いね。そろそろ寝ようか」
「もうちょっと見ていたい」
僕は「仕方ないな」と苦笑して部屋に戻り、ブランケットを持ってきて妹と一緒にくるまる。
「あったかいね」
えへへ、と五才のあどけない顔で笑う。六つ歳の離れた、可愛い妹。
僕らは眠くなるまで、星空を眺めていた。
翌日、手早く朝食を済ませ、ちぃと一緒に家を出る。玄関をそっと開き外に出ると、静かに扉を閉めて鍵をする。ちぃを保育園に送って、それから学校に行く。学校はめんどうだ。ぼんやりと数学の授業を聞きながら、妹のことを考える。
早く会いたい。妹は、僕が守らないと。
学校が終わり、保育園へ妹を迎えに行く。ちぃは僕にすぐに気付いて、駆け寄ってくる。
「ちゃんと先生の言うこと聞けた?」
「うん。ちぃ、いい子にしてたよ」
僕は妹の頭をくしゃりと撫でる。ちぃは嬉しそうに笑った。園舎から出てきた保育士さんに軽く頭を下げて、僕たちは家路についた。
家に帰って、適当に夕食を済ませ、二階の自室に入ったところで玄関が開く音がした。僕は急いで電気を消し、ベッドに潜り込む。足音は階段を上ってきて、僕の部屋の前で止まった。ノックが二回。僕は息を殺す。もう一度、ノックの音。しばらくして扉が開かれる。僕は寝たふりをする。十秒ほど経って扉は閉じ、足音は階段を降りていった。
ほっと息を吐き、それからベランダに出る。
「あと三日だね」
ちぃは星空を見上げていた。妹の頭の中はきっと、流星群のことでいっぱいなのだろう。
「うん、そうだね。あと三日」
あと三日で、流星群。僕も妹も、それが楽しみなのだ。
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