ep1 迷子を捜せ!

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(2) 「きゅいきゅい」 「あれ? ソウってもしかして匂いが追えるのか?」  鼻をくんくんさせているので聞いてみると、ソウが何度も頷く。 「カワウソくん、すごい!」 「きゅいっ!」  くんくんと鼻を動かしながら歩くソウと、それを追いかける女の子。  公園内では危険もないだろうし、俺は少し離れて付いていこう。  駐輪場を通り抜けて公園に出た時に、後ろから声をかけられた。 「あれ、続木くん、どこに行くの」 「あっ、小池か。すまん、ちょっとな。迷子の猫を一緒に探してやろうと思って」  声をかけてきたのは、一緒に勉強する予定だった小池だ。たまたま今来て、俺を見つけたって。  よかった。小池のこと、すっかり忘れてた。  丁度いいからここで断っとこう。 「そんな訳で、先に行って勉強しててくれ」 「何言ってるんだよ。困ってるなら僕も手伝うよ」 「まじで? さんきゅ!」  小池、いいヤツだ。  立ち止まった俺たちを気にもせずに、どんどん先を歩くソウと女の子。俺たちも慌てて後を追う。まあ、公園内は木が生えてても見通しは良いので、今のところ迷子になる心配はない。それは良いけど、猫の姿も見えないなあ。  ところで、公園内を右へ左へと歩き回る小学生とカワウソ、それを追いかける高校生二人って、逆にちょっと怪しくないか?  しばらく追いかけているうちに、少し人目が気になり始めた。そんな時ソウが一本の木の下で立ち止まる。 「何か見つけたのか?」 「きゅい……」  小さく頭を横に振るソウ。  木の上を見上げているが、そこに猫のいる様子はない。  ああ、木に登ってジャンプしたかなんかで、匂いが途切れてるんだな。  ソウは木の周りをぐるぐるとまわって、痕跡を探している。 「この動物、カワウソ?」 「ああ」 「続木くんのペットなの?」 「あ、ああ。そうだよ」  ペットというか、押しかけられたというか、取り憑かれたというか。 「珍しいね。それに頭が良さそうだなあ。犬みたい」 「きゅい!」  ソウは立ち止まって振り返ると、キリッとした顔になって首を横に振った。 「犬と一緒にするなって言ってるみたいだぞ。知らんけど」 「本当に頭良さそうだよねえ。あ、また匂いを見つけたみたい」  ソウが歩きだしたので、またぞろぞろと後をついて歩く。女の子と俺たちの距離はいつの間にかすごく近くなってて、自然と普通に話していた。 「ユメちゃんはとってもかわいくて、とっても頭のいい猫なの」 「へえ。すごいな」 「どんな模様の猫なの?」 「真っ白いよ。こんなに小さい時に拾ってきたの」  小さな手の指と指を広げて、説明する。その後に腕で大きなわっかを作ってみせた。それが今の猫のサイズらしい。 「シッポが短くて、赤い首輪をして、お散歩用の黒いハーネスをつけてるの」 「オッケー。それくらい分かってれば、きっと見つかるさ」  しかし公園から出たところで、ソウの嗅覚を使って探すのは諦めることになった。交通量はさほど多くないとはいえ、車の通る道路で匂いを追って歩くのは危険すぎる。 「きゅい……」 「落ち込まなくてもいいぞ。ソウはここまで追いかけてくれたんだから、次は俺たちの番だ。えっと……まずは聞き込みだな」  うなだれているソウを抱きかかえてリュックに入れた。さあ、公園の外に出よう。ソウはリュックの上から顔を出して、俺たちと一緒に周りを見回している。  リュックを背負ってたら見えないだろうって?うん。背後だけどね。気配がするの。きゅいきゅい鳴いてるし。  公園から出てすぐの歩道に立って、周りを見る。平日の昼間だからだいたい人通りは少なくて、今は誰も歩いていない。  道沿いには民家がいくつかと、アパートと事務所みたいなプレハブ、そして道路の向こう側にコンビニがあった。 「コンビニで聞いてみよう」 「うん」 「ソウは隠れとけよ」 「きゅい」  二十メートルほど離れたところにある横断歩道を渡って、コンビニの中に入る。  涼しい!店内の冷たい風に当たって、生き返るような心地になる。  あまり大きくない店内には、三人の店員がいた。 「あのう……」  女の子が思い切って声をかけようとしたが、言葉に詰まってしまう。まだ小さいからなあ。よし。ここはお兄さんたちに任せたまえ。 「すみません。白い猫を探しているんですが、この店の前を通りませんでしたか?」 「んん? 猫? 俺は見てないなあ。店の中にいたし。あ、そうだ」  入口付近にいた店員が振り返って、レジにいる店員に声をかけた。 「なあ、山田。さっき外の掃除してたじゃん?猫見てない?」 「ん? ああ、見たよ! かわいいよね、猫。餌をやれないのが残念だよねー」 「本当ですか!どっちに行ったか教えてください」 「え、え、ああ、えーっと、何色の猫?チャトラと白と三毛がいたけど」  猫、多いな。 「白い猫です。赤い首輪で」 「ああ、みたみた。黒い服を着てた?」 「それです!」  ハーネスは黒いと言ってたから、ちょっとベストっぽいやつなんだろうな。  どうも店員の山田さんは猫好きらしく、この暑いのに外の掃除を率先してやるみたいだ。そして暑さに日陰ででろーんと伸びている猫を見つけて眺めるのを楽しみにしているって。 「この近所は地域猫が多いからね。その白い猫は普段見かけない子。ちょっとだけ三毛と睨み合ってから、あっちのほうに行ったよ」  そう言ってコンビニの横の路地を指さした。  図書館とは反対の方角だ。そっちは住宅街になってて、俺は普段は通ったりしない道だから詳しくない。  だけど女の子は喜んで声を上げた。 「あっちは私の家がある方向!」 「そうか! ユメちゃんは家の方角が分かって、ちゃんとひとりで帰ったのかもな」 「うんうん。そうだったらいいね」 「きゅいっ!」  ということは、ユメちゃんは多分家に帰ったんだろう。これまでも女の子の家族とリードをつけて散歩することはあったみたいだから、道も知ってると思う。  だったら、もう大丈夫かな?  でも、ここまで来たら最後まで見届けようか。  小池とそう目で語ってから、皆で一緒に女の子の家の方に向かった。
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