1人が本棚に入れています
本棚に追加
バベルの奴隷商
棗という弱冠十五才の少年が、オレの主人だ。
「ちゃんと約束通りの値段で買ってくれた?」
ソファから立ち上がると、棗はそう言いつつオレのところへ小走りにやって来た。
オレは無事に取り引きを済ませてきたことを伝える。
オレは棗に買われた人間。なおかつ棗の友人であり、従者という立場にある。
「お前、いつまでこんな商売続ける気なんだ」
ポケットに手を突っ込んだままでオレは言う。
「んー……続けられる限り、かな?」
そう言って棗は、にへっと笑う。
オレはため息をつくしかない。
――どうしてそんなふうに笑えるんだ、こいつは。
富の格差ってやつは、今や人間すら商品に変えちまった。何かのたとえや皮肉とかじゃない。文字通り、値札の貼られた人間が市場に並べられている。
市場には売り買いする側の人間、そして売られる側の人間、そのニ種類がいる。
棗は売り買いする側の人間だ。
早くに亡くなった親の遺産を元手に、この年齢で立派に商売をしている。
才能なのか努力の賜物なのか、今のところ上手くいっている。
オレはと言えば元々は売られる側の人間で、運良く処分されずに済んだ人間だ。
――いい加減、何とかしないと……こんな商売がいつまでも上手くいくとは思えない。
最初のコメントを投稿しよう!