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「あのおじさんなら大丈夫だよね。気に入らないからって処分するような人じゃないよね」
買われた商品がその後、どんな扱いを受けることになるのか。そんなことは本来、売り手の知ったことじゃない。
だけど棗が値踏みをするのは、買い手のほうだ。
「もういいんじゃねえか。そんなこと気にしたって仕方ないだろ」
「ダメーーッ!!」
そう言って棗は頬を膨らませる。
また怒らせてしまった。
「下調べならちゃんと済ませてるって。そんなに心配しなくても大丈夫だって」
毎度のことながら、今回も下調べと称する偵察業務で死にそうになった。
***
「シンくんにして欲しいことは三つあります」
オレより二つ年下の少年は、そう言って三本指を開いて見せる。
棗に市場から連れ帰られて、オレが最初に言い渡された指示だった。
一つ目は自分の友だちになること。二つ目は自分の身のまわりの世話をすること。三つ目は自分の仕事を手伝うこと、というものだった。
オレはただ「小さい手だなぁ」なんて思って、ぼーっとしながら話を聞いていた。
***
今にして思えばオレも子供だった。世間のことなんて何も知らずに生きてきたわけだ。
身のまわりの世話はまだいいとしよう。
だけど、友だちに仕事の手伝いを命がけでさせるのはおかしい。オレがそのことに気づいたのは、少しあとのことだ。
商品を売りに出すと、買い手候補が名乗りをあげる。
もちろんながら、買い手となる人間が善良であるとは限らない。
誰の目から見ても、商品への仕打ちがひどい人間もいる。だからと言って、そのことは別に非難されることじゃない。むしろよくある話だ。
たとえ外聞が良くても、明るみに出せないような趣味や性癖を抱えている人間だっている。人知れずそれを商品にぶつけるような人間。
むしろそういう人間のほうが、オレには厄介だ。
本当に善良と呼ぶに値する人物なのかどうか下調べをする必要が、つまりオレの仕事が発生するからだ。
買い手の多くは金持ちだ。住居のセキュリティなんかも万全で、ただの泥棒風情ならまず手を出そうとは思わない。
情報収集のために、そんな死地へ友だちを行かせるとはどういう了見なのかと、小一時間ほど問いつめたくなる。
それでも今は、とにかく棗を宥めないといけない。おやつで機嫌を直してくれればいいんだが。
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