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♯1 愛して欲しい 前半
愛されたいと願うこともきっと大事ですけれど、
鳥も人間もお腹が空けば鳴きますし
飛び立ちたい時は思い切って違う世界を見て
冒険しても良いと思いますのよ。
好きな時に飼い主に甘えるのが
本当の可愛さかもしれませんから。
それは衝撃的でいて、全てを見透かされたような。
私の心に強く直接語りかけてきた言葉だった。
なんで?どうして?
クラスで流行っていた動物に例えてくれる診断で盛り上がっていた時のこと、
たまたま会話しただけだったのに、
私は文鳥だったの…
私は、私は、…
まだあまり話した事のない先輩のたった一言が
数日間頭の中で離れることはなかった。
勇気を出して、
交換したLINEにメッセージを送ってみる。
『 ねぇ、ゆかりさん。
例えばだよ、例えばなんだけど、
1度鳴いてたり冒険に出た鳥がいるとして。
その行動が、その鳥の住むところでは失敗だったとしても、また鳴いたり冒険に出ても良いの…??
相手が本当は望んでなかったのに甘えても、
困ったり幻滅したりしない…?? 』
思ったよりも私の疑問への返答は早かった、
『 そうね、
ワタクシの経験では学びを止めてしまえばそこで物語りが終わってしまうの。
本を読むのが好きなのですけれど、挫折や後悔って必ずついてまわってくるものでしょう?
ワタクシにも苦手なものもありますし完璧にこなせる人もそう多くないですから。
天才と呼ばれる人にも、
天才だからの悩みがありますでしょう?
はじめに鳥さんは、
鳴いたりすることや冒険に出ることが楽しかったのかしら?
もし、そうでないのならば違う世界を探さないといけませんの。
でも、誰かと鳴きあって、冒険の旅に出ることや自由に空を飛び回るのが好きだった鳥ならば…
ずっとその記憶を抱えているでしょう?
ならもう一度動き出せるはずですわ。
何故なら、それを望んでいるのなら、
後は踏み出す勇気だけですから。
「相手」に不安を持つことは優しさですわね。
幻滅されるかもしれない、
甘えてはいけないかもしれない、
誰かの様子を伺って生きる事もきっと大切かもしれません。
ですが、少しずつでも変わる意志があれば後悔する前に動くことが大事ですのよ。
これは余談ですが…
「夢を見なければ現実にはならない、動き出さなければ成長は止まる、強くなりたいならば強く望め」
というワタクシの師からの教訓がございますの。 』
とても強い生き方をしている人なんだと思った。
私は…
なりたい自分となれない自分と、…
ふと鏡に映る情けない姿が目について逸らす。
もっと…聞いてみたい。
『 鳥さんは色々あって逃げたくなって鳴いたの。
でも、鳥さんのお友達は理解してくれなかったし、結局は血統?を見てくれる人しか居なかったの。
その鳥さんのお家が、有名なところだったから。
だから、他の場所で、血統について知らない所だったら鳴けるのかなって思ったんだ…逃げた場所では、みんな良い子だったの。
でも、その鳥さんが“優しい鳥さん”だから仲良くしてくれてるのかなぁって。
怖いの、
鳥さん自身を愛してくれるかなんて分からないから…相手を信じたいのに怖いの… 』
鳥と言いながら、自分の話を濁しながらしてみる。
きっとこんな言い方をしたら私の事だってバレてしまうかもしれない。
でもなんでだろう、話さずにはいられなくて。
するとまた、そんなに間を開けずに返事をくれた…
気を使っているのだろうか…
『
そうなのね、
鳥さんは本当の自分を見てもらうことが無かったのかしら?
よく頑張りましたね。
その時間は鳥さんにとって辛かった事がたくさんあったのかしら?
逃げることは立ち向かうよりも大事な事ですのよ。
鳥さんは賢くて優しいのね。
そうね、鳴いても理解されない時は結構あるの。
十人十色って言葉があるように、人はみんな意見が違うんですから。
でもね、その鳥たちは、鳥さんの言葉を理解できるような知識や理解できても対応する力がなかったのでは無いかしら?
そういう時は、違う鳥を探してみたらいいと思いますの。
そうね…
愛についてはワタクシも今考えているところなの。
鳥さんの話から少し逸れますけれど…
誰にでも平等でいることが未来なりたいものへの大切なことだと思って生きてきてしまったの。
医師になりたいのですけれど、
人の命を救う仕事となれば全ての方に愛という感情を持っていなくては出来ないと思っていまして。
本心で動いているのに、
周りからはそう見えない…
でも理解されなくてもいい、
それでワタクシは幸せなのですから。
誰か1人を愛するより、
たくさんの好きな人や、
好きなものを愛するのがいけない事ではないですから。
でもきっとそれは友愛なのでしょう、だから真実の愛や恋する乙女の本を読むのはとても好きなの。
ワタクシには今まで感じたことがない世界ですから。
ですので、
鳥さんは何の愛を探しているのかが大事ですわね。
たくさんの人から愛が欲しいのなら、先ず自分から歩みよらねばなりません。
情熱的な愛を探しているのならば、
気になる方をよく知って、
そして自分の事もちゃんと知ってもらわなければいけませんね。
何の愛を探しているのかわからなければ、
とりあえず自分を知ってもらうことから、
ゆっくり始めたら良いのでは?
きっと何回も失敗しても諦めなければ、
自然と鳥さんの周りに素敵な愛に溢れた世界が出来ているのでは無いでしょうか。
ふふ、ロマンチック過ぎるかもしれませんが、ワタクシ愛について考えるの好きなので…
お話できて嬉しかったですわ
聞いてくださって、
ありがとう。』
読み終わって私は泣いていた。
泣くつもりじゃなかったのに…
なんでかな。
全然わかんなかった。
でも苦しいのか、悔しいのか、
嬉しいのか、凄く不思議な気持ちで。
暫く携帯を握りしめた。
鳥の話なのに。
そう、鳥の話なの……
………
暑くなってきた日差し、
長い髪も鬱陶しくなるくらいだけど、
切りたいとは思っていなかった。
三年生の教室へと向かってる階段でぴたりと止まる。
「あら、千雪さん」
にっこりと微笑む彼女は私の一つ上の三年生、
京極ゆかりさん。
そう、数日前に私は彼女とLINEをしていた。
鳥の話から、とても興味が湧いてしまって、
長々とやりとりをしているうちに、
昼食でもどうですか?と誘われて
今日は約束した日だったので教室へと向かっていたところだ…
「ゆかりさん!?いま教室に向かってる途中で…」
「宜しければ、外の空気を吸いに行きません?」
外は暑いとばかり思っていたのだけど、
ゆかりさんに連れられて行った先は、
校舎の裏側の木の日陰にあたる部分で、
椅子や机もある場所だった。
こんな場所あったかな…
最近できたのかもしれない。
日陰だし、ゆっくりと流れる風が気持ちが良かったので問題はなかった。
2人で向かいの席に座り、お弁当を開き始めると急にゆかりさんは私の横へ来る。
「あら、美味しそうですね」
急なことだったので、ちょっとだけ驚いた。
「え、これくらい簡単にできるよ?」
とお弁当のサンドイッチの説明をしようとした瞬間にゆかりさんは耳打ちをしてくる。
「あの人、ずっと千雪さんをつけてきてますね」
小声で言われてゾッとした。
実は考えないようにしていたんだ。
ゆかりさんに言われて手が震える。
せっかく食べ始めたサンドイッチが戻ってきそうだ…気持ちが悪い。
「千雪さん」
そっと震える手にゆかりさんの手が重なった。
ふんわりと優しく私の手を撫でてくれる。
「どうしよう…」
不安そうな顔をする私を見て、
いつもと変わらない笑顔のゆかりさんは小さな声で「ワタクシがいますから安心なさって」そう言って背中をさすってくれる。
声なのか触れてもらえたからなのか、
不思議と落ち着いてくる。
「ありがとう…大丈夫」
「そう?」
ゆかりさんは、そう言った後も私の隣にいてくれる。
たわいもない会話をしながら、
ふと辺りを見回すと気にしていた人物はいなくなっていた。
「千雪さん、鳥さんの様子はいかがですか?」
不意にゆかりさんに言われてハッとする。
「えっ、あ…鳥さん?…えっと…」
「ふふ、ごめんなさいね…意地悪でしたか?」
困った顔をしながら私を除きこんでくる。
やっぱり…バレてるんだろうなぁ…
でも気を使って「鳥さん」の話として聞いてくれてるんだ。
「…変わらないかなぁ…」
私もちょっと困った顔で返すと急にゆかりさんは両手でわたしの手を包む。
「ワタクシで力になれそうですか?」
心配してくれているのだろう。
今までなかった事だし、
つい甘えそうになってしまう。
「ゆかりさんと話してると甘えたくなっちゃうな」
なんて本音まじりに言うと、
今までになく明るい声で「嬉しいです」なんて
ゆかりさんが言うので、私まで嬉しくなった。
「あのね…」
私はゆかりさんに、
最近おかしな違和感について話した…
数日前からそれは続いていた、
本屋で落とし物を拾ってあげた人物なのだが、
レストランでもばったり会うし、
同じ学校だったのもあり
いく先々で頻繁に目があったり、
いつの間にか近くに居たり…
私が気づかないフリをしてると
自分から話しかけてくる。
多分、推測なのだが…
彼は私に気が合って、ついてきている…
所謂ストーカーなんだろう。
でも実際に何かされたわけではない。
私の勘違いかも?
なんて…思っていたのに、
ゆかりさんは直ぐに違和感に気付いてくれた。
「ワタクシに考えがあります」
ひと通り聞き終えると、ゆかりさんが言う。
ストーカーを撃退するのだろうか。
どんな提案なのか気になったのだが、
チャイムが鳴るので、
もう行かなくてはいけなかった。
「またLINEでお話ししますわ」
そう言って昼食が終わってしまう。
まだまだ話したい気持ちも、その考えも気になる…
ストーカー男も何処からくるのか不安だし、
ゆかりさんの手を一瞬掴みそうになってしまうのを堪えた。
私、なにしてんだろう。
胸の前で伸ばそうとした手をギュッと抱え込む。
不意に何かに気づいたのか、
ゆかりさんは私の方を振り向いてニコッと微笑んだ。
…
それは眠ろうとした夜中に突然の連絡だった。
『千雪さんとデートしてくださいませんか?』
ゆかりから来たLINEの文の意味は
いつも結論から話すので意味がわからない。
YESと言わないのを解ってわざとなんだろうか。
慣れているので決まって返答は同じ。
『なんで?』の一言から始まる。
どうやら説明が長くなるからと電話をくれたが、
『それって俺じゃなくてもいいよね』
そうやって突っぱねた。
それを珍しく感じたのか、
ゆかりは電話越しに困ったように『助けてあげたいのです』と一言。
確かに今までゆかりからこういう話を切り出されたことは何度もあった。
ある程度【報酬】というものをゆかりが出してくれるから受けてきていたが。
今回の難点はただ一つ、
隣のクラスの『2年B組 華園千雪』だと言うこと。
とくに目立った会話をしたことがなかった。
どうしてかと言うと…
少しだけ違和感があった…
おそらく俺が【苦手】な分類の女だったからだろう。
何度かは会話をしてきたのに、
どうも掴みどころがなかった、変な壁もある。
表も裏も無いのかもしれない。
でもなんだか、心ここに有らずというのか。
本人は周りとは別世界の生き物だと、
一線を引いて見えた。
触れてはいけない境界線が、
言葉を交わすたびに厚くなって広がる。
彼女からしても俺に対して警戒をしているような、そんな感じがあった。
今回は、
千雪がストーカーの被害に遭っているから、
彼氏のフリをして撃退してほしいということだ。
いやいやいや、
まだ全然千雪のことは知らないし。
勉強会をしようと2人で話した結果、
なんやかんやと広がって10人近く集まってやることになってるし。
2人っきりになるなんて全然想像がつかなかった。
会話も当たり障りなく、同級生そのものだし…
…どうしろっていうんだ。
『千雪さんには連絡しておきましたので。』
ただそれだけ言って電話を切られる。
具体的にどうするかとか、
そんな話は一切なかった。
…深いため息が溢れる。
女性関連では滅多にない事だった。
というのも女性と遊ぶことは好きだが…
千雪の【壁】がある限り楽しめるようには
思えない…
とりあえず何か、話す日が必要か…
不意にLINEの画面を開く。
なんて切り出そう…
簡単な感じでいいか…
『
千雪、起きてる?夜にごめんねー
ゆかりから聞いてるかなー?
とりあえず話したいんだけど、
期末テスト終わったら時間ある?
スタバとか行く?
』
不意に送った簡単な文に、
直ぐ連絡が入った。
『起きてるよ、テスト終わった後の打ち上げみたいな感じだね!行きたいな』
と同じように軽い文が帰ってくる。
まるで俺に合わせてくれているかのように…
何を考えてるんだろ。
違和感がどうしても離れないまま、
月日が流れるのは早く…
勉強会も期末テストも過ぎて、
打ち上げの当日になった。
前に約束していたパーカーと、
ゆかりから預かったものを持って、
放課後の待ち合わせ場所に向かった。
……
ゆかりさんからLINEで案が来た時、
不安が過ぎった。
『春輝くん…が?』
ちょっと待って…
春輝くんがストーカーの撃退に付き合って、
彼氏のフリをしてくれるの?
正直不安もあったし…
案を聞いた時に
ゆかりさんには悪いけど、
春輝くんには断るつもりだった。
それを思ってか、
期末後の約束したスタバの待ち合わせ場所で
いつにもなく緊張していた。
ただ、LINEでの会話はアレっきりだったのもある。
たまに学校やSNSで会話はしていたけど…
でもせっかく2人が考えてくれたのだし。
LINEで断らず面と向かって話したい。
「ごめんねーちょっと遅くなって」
ちょっと駆け足気味に私のところへ春輝くんは来てくれる。
「大丈夫だよ、行こう!」
と私が言った瞬間に春輝くんに腕を取られ、
強く引っ張られる。
何事か分からなかったが、私はそのまま勢いで春輝くんの胸の中に飛び込む形になってしまう。
ベチャッと何か液体のようなものが飛び散る音がする。
「な…に?」
私がおそるおそる目を開くと、
一面に真っ赤なペンキが広がっている…
何が起きたんだろう…
「服汚れちゃったね」
私がワケも分からずにいると、
春輝くんが指を刺して汚れた場所を教えてくれる。
今日は肌寒さがあったから軽くパーカーを羽織っていたのだが、それが汚れてしまった…
「なんでこんな…」
とりあえずパーカーを脱いで薄着になると、
遠めからパシャパシャと連続のシャッター音がする。
「あいつ…」
春輝くんがその音の方を振り向くや否や、素早くストーカーらしき男の走り去る足音が響く。
私は春輝くんの腕を引っ張り「待って!」と止めた
「いや、このままじゃエスカレートすんじゃん」
春輝くんに言われて悔しいが自分でも
わかっていた。
実は最近になって下駄箱に妙なものが入っていたり、知らぬ間にロッカーや机の中に変なプレゼントが入っていたり…
更には
汗をかくからと持ってきた
替えの下着まで盗まれていた。
盗んだ挙句に新しい下着を買ってきたのかプレゼントされる。
誰にも言っていない。
ゆかりさんにも断りを入れる前に変に連絡するのもいけないと思って止めていたし、
警察がとりあってくれるかわからないけど、
期末が終わったら相談してみようと思っていた。
「ちゆなら大丈夫だから」
本音じゃ無い言葉は限界がきていたのか、
弱々しくて震えていた。
情けない、情けない…
私は今までしっかり人を見て生きてきた
強いはず、強いから。
大丈夫、私は私を守れる。
「もう我慢できねぇ…」
春輝くんは、
そう言うと私の鞄をヒョイっと奪い取る。
その行動の意味がわかった瞬間にゾッとした。
やめて!見ないで!焦って春輝くんに私は必死でしがみついていた。
でも身長差もあるせいで、
全く手が届かなくて悔しい。
「そんな必死に、何をいつも隠してんの?」
突然春輝くんは私の頭にポンと手を置く、
驚いてもがくのを止めてそのまま固まっていると、
「はい返す」
と言われバックは何もされずに戻ってきた。
「…ごめんねー、意地悪しちゃった…行こう」
春輝くんがいつもの調子の声だけど、
少し冷たく言う。
何も返答ができず悲しくなりながら
私も一緒にその場を後にした。
歩いてる途中は、普通に学校での事を話す。
ペンキは明日誰かが来る前に片付けた方が良いかな…なんて考えながらスタバに到着すると
さっき意地悪しちゃったから、
と春輝くんは私の分も飲み物のお金を出してくれる。
断りたかったが、私の中でいろんな気持ちがごちゃごちゃしていて「ありがとう」と素直に奢ってもらう事にした。
意外と混んでいたので、
カウンターに並んで座る。
「ねぇ、俺が彼氏役やってストーカー撃退する…なんて作戦さぁ…本当は嫌なんじゃ無い?」
「え?」
本音を見抜かれたかと思って焦る。
「実はそうなの」って言いたいのに変に傷つけるのが怖くて「そんなことないよー?」なんて笑ってみせる。
春輝くんがまっすぐ私を見てくるのが居心地悪くて、せっかくの飲み物は喉を通りそうにない。
「…ねぇねぇ、助けてって言ってみて」
不意に春輝くんが言葉を指定してくる。
1番口に出したくない言葉だった…
「え?なんでかな?」なんて逃げようとすると、
春輝くんが何も言わずに頬杖をついて窓の外を見ていた…特に表情は普通だ、
何を考えてるかわからない。
暫くして、言うだけだし…
簡単でしょ…
って口を開いてみる。
「た…たすけ…て?」
小さく呻いたような声になってしまったし、
なんでだろう…
やばい、涙が次から次へと溢れてくる。
違う、違う…違うの…
「え、ちょっと…」
春輝くんの慌てる声がしたが、
私は、あまりにも不服で顔を覆った。
もうなんか、
せっかく可愛くしてるメイクもぐちゃぐちゃだろうし。
恥ずかしい。
この歳で、こんなとこで何で泣いちゃってんの。
嫌い、こんな私…嫌い…
不意に春輝くんの手がそっと肩に触れる。
「学校の子に見られるとマズいし移動していい?」
耳打ちされ、顔を隠しながら頷くしかできない。
私も今直ぐにでも抜け出したかったので、
すぐさまスタバを後にして、
人気の無い公園のベンチに腰をかけた。
その頃には、私の気持ちも落ち着いてくる。
「…俺喋んない方がいいよね」
不意に春輝くんがうなだれた様に言ってくる。
苦笑いしながら笑顔を向けてくれて
申し訳なさを感じた。
違うんだ、…迷惑をかけてるのは私だった。
「…ごめん」
私が手に持った飲み物を見つめて言う。
「あのさ…俺は無理して欲しいとは思わないよ?…でも、迷惑なんてかけながら人間生きていくもんなんだし、俺のことなんか、どうでもいいぐらいの…ただのお節介なやつだって思って気持ちを吐き出してみたら?」
春輝くんは優しいんだろう。
こんな私に付き合ってくれている。
どうして?
「春輝くんは…嫌じゃ無いの?ちゆの彼女のフリなんて」
やっと声が出たので聞いてみると。
「嫌だよ?」
と即答で答えられて、ドキッとしたが、
春輝くんは続けて口を開く。
「でも、今の千雪だから嫌なだけ。
全然頼ってくれなかったりとか、なんか壁もある気がするし、すげーやりずらいって言うか…
でも、今のまま千雪をほっとく方がもっと嫌だし…出来るなら協力はしたい。」
普段の飄々としたイメージと違って真剣に話してくれてるのが、なんだか有り難くて。
泣いた後だったからなのか怖かった気持ちも、
辛かった気持ちも全部消えていた。
ただ一言だけ、言いたい…
「春輝くん………助けて」
思わずじっと春輝くんを見つめていた。
どんな反応をされるのか気になったからだ、
そうすると、嬉しそうに彼は笑いながら、
私の頭を撫でてくれる。
「いいよ」
たったのその一言なのに、
重くなっていた私の気持ちがスッと軽くなった。
不思議。
どうしてか、笑ってしまっていた。
久しぶりに気持ちが良くて柄になくスキップとかしてしまいそう。
「ねぇ」
不意に小さな手鏡を渡される。
「顔やばいよ?」
と広角を上げ気味に笑いを堪えた春輝くんが言う。
ハッとして、鏡を見るとさっきの泣き跡でマスカラもファンデーションもぐちゃぐちゃだった。
酷すぎるし、恥ずかしいし、みるみる顔が熱くなる。
「ちょっと!言うのが遅いよー!」
なんて、春輝くんの肩を思い切って軽く叩くと、
「可愛いよー?」なんて冗談を言って彼が笑っていたから、ついつられて鏡に映る自分の顔を思い出して笑えてきちゃう。
「本当に無理なんだけどーーー!」
言葉とは裏腹にくだらないことで笑いが止まらない…こんな気持ち、いつぶりなんだろう。
「メイク直しながらでいいからさ、ストーカーからどんなことされてんのか話してくんない?」
急に春輝くんに言われて、
笑ってる場合じゃなかったと思い。
さっき取り上げられて焦ったバックから、
ストーカーからの手紙や意味深なプレゼントを出して過去にストーカーにされた事を春輝くんに話していく。
男子の横でメイクを直すなんて今までなかったのに、もう不細工な顔を見られたからか平気だった。
春輝くんは揶揄うけど「可愛い」って言ってくれたからかな…?
別に見られてもいいやって吹っ切れてしまった。
話しながら、
春輝くんの事、
何となくだけど理解できた。
いろんな人と仲良く話が出来てるのは
そういうところなんだろうな…
男女平等で、
私みたいにいろいろ隠しているタイプなのかなって思っていたんだけど思い違いだったのかも。
「なるほどねーーー…結構やばくね?よく1人で耐えたじゃん、偉いね」
春輝くんは、
ひと通りストーカーの話を聞いてそう切り出した。
あれ…なんか聞いたことある様な…
『そうなのね、
鳥さんは本当の自分を見てもらうことが無かったのかしら?
よく頑張りましたね。』
そういえば、
ゆかりさんが言っていた言葉に、
どこか似ている…
幼馴染…なんだっけ…?
私が悩んでると春輝くんから提案をされる。
「とりあえず、ストーカーを撃退するまでの間…暫くは彼氏のフリするよ、別に皆には話さないし…なんかあったらすぐ呼んでくれればいいし。」
「うん」
いろいろ配慮してくれてるのは良くわかる。
もう変な気は使わなくても大丈夫だと思った。
ちょっと聞いてみようかな…
「あのさ…例えばなんだけど、
1度鳴いてたり冒険に出た鳥がいるとして。
その行動が、その鳥の住むところでは失敗だったとしても、また鳴いたり冒険に出ても良いの…?」
ゆかりさんへと同じ質問をしてみると、
返事は即答だった。
「いいよ」
たったの一言、さっきと同じ様にハッキリと言ってくれた。
私のことじゃ無いのは分かってる。
でも嬉しい。
「どうして?」
思わず興味津々に聞くと、
うーんと春輝くんは空を見ていたが、
急に私の胸元を指差して
「Follow your heart!」
なんて言う。
小洒落た英語だが、直訳すると心に従えってことかな?…春輝くんらしい英語だと思った。
いつも自由で私に対しても優しく語りかけてくれる。
「thank you」
私がにっこりと微笑むと春輝くんは「どう致しまして」と日本語で返してきた。
そこは英語じゃないんだなって笑っちゃう。
今までは上辺での笑顔だったかもしれない、
でもやっと本当に笑えてる気がしていた。
急に寒くなったのかくしゃみが出てしまう。
本当に今日は油断してるなぁなんて思っていると、
「あ!そうだ」
と春輝くんは自分のリュックから袋を出して私に差し出してくる。
「前に話してたパーカーなんだけど」
そういえば、あんまり話したことなかった時に私が新しく買ったチェリーのピアスを見て、
春輝くんが持ってる服と合わせたら可愛いかもって話をしてくれていたのを思い出した。
「持ってきてくれたんだ」
「渡すかどうか迷ってたんだけどね〜今なら有りかなって思ってさ」
という事は、いつも持ち歩いていてくれたんだろうか…?パーカーに袖を通すと丁度良さそうな丈で凄く可愛かった。
春輝くんが着ていたとは思えない、
本当に女性らしいパーカーだ。
「貰っちゃっていいの?」
私がおそるおそる聞くと、「気に入ったんだったら、あげるよ」なんて言ってくれる。
ちょっと寒いなって時にも丁度いいし、
派手すぎないから有り。
「貰っておくね」
私が弾み気味な口調で言うと、
「やっぱり似合うね〜」なんて言ってくれる。
春輝くんとなら女友達とかの感覚と変わらずに買い物とか行けちゃいそう。
多分デートもいつも通りで大丈夫かも。
なんて浮かれていた。
そんな私に、不意に近づいてきて、
ぐっと体を寄せられるので、
意味がわからず私は身構える。
「ストーカーが反対側の木陰にいる…」
私たちの背中側をストーカーが見ているていで、春輝くんが私を抱き寄せるようにしてくれたようだった。
配慮をしてくれているからなのか、
抱き寄せるのは一瞬で直ぐに軽く私から離れてくれる。
なんでか寂しくなるのを感じた。
「ありがとう…」
私が言うと、
春輝くんは袋の中に入っていた、
ゆかりさんからの小包みを渡してくれた。
帰ってからでもいいから見てみなよ。
と言われたので、大事にバックにしまっておく。
春輝くんはストーカーもいるし、
居心地が悪いからか立ち上がったので
それを見て私も並んで歩く。
急に心強くなって、彼氏かぁ…
と思い春輝くんの手を取ろうとしてしまい
躊躇った。
あくまでフリなんだけど、
どこまで甘えていいのかな…?
分からずに手を引っ込める。
帰り道は学校の話とか家の話、
デートはどこに行くかとか話していた。
私の提案で遊園地になり、
日にちはストーカーに聞こえるように少し大きめな声で2人で話した。
その日までは彼氏のフリをしてくれるんだ。
帰りは家の近くまで送ってくれたし、
不安な時は一緒に帰ってくれるみたい…
まるで騎士の護衛が側近についたような感じ。
ちょっとしたお姫様気分だった。
帰宅してからゆかりさんの手紙を開く。
『 千雪さんへ
体調などは、お変わりありませんか。
春輝とのお話は、いかがでしたか?
きっと役に立てると思ったのですが、
お節介だったら御免なさいね。
春輝だったら…
ワタクシの見えてない千雪さんも見えると思ったの、きっと力になれますわ。
どうか千雪さんの平和が訪れるようにと、
千雪さんを思って耳飾りを作ってみました。
良かったら、使ってくださいね。
成功をお祈りしています。
京極ゆかり
』
そう手紙に書いてあり、
あまりにも優しくて胸が苦しくなった。
ルビーレッドの花の耳飾り。
私の大好きな色。
強く見える色がお気に入り。
鏡で合わせてみると華やかで可愛らしくて、
ふと笑みが溢れた。
ゆかりさん、ありがとう。
鳥さんは、
ちょっとだけ新しい世界に羽ばたいてみようと思います。
失敗するかもなんて、今は考えなくていいや。
きっと、大丈夫。
そんな気がするから。
……
next #2 愛して欲しい 後半
…
はーい!どうも!
相変わらず後書きに登場するめばるです…
えっとね、、、、
非常に非常に、、いろいろ語りたいんだけど…後半の話が上がってからでも良いかな?笑
とりあえず、このストーリーができたきっかけから話そうかなぁ。
ゆかりが登場した頃のこと(?
急にシキケン生徒がいろんな診断をやり出したんですね。
その時に
千雪ちゃんが文鳥で、ゆかりは鶴でした。
そっから話が膨らんで出来たストーリーで、
冒頭で話している2人の会話は、
ツイッターのDMでガチで会話していたし、
ゆかり(中の人はめばる
その時は千雪の過去を知りませんでした。笑
気になっちゃって気になっちゃってwww
めちゃくちゃ長文で必死に会話しました。
千雪ちゃんは、何を言っているんだろう。
何を求めてるんだろう。
解読に必死なメバル。
ゆかりが長文で話終わってから、
千雪ちゃんの中の人のツイッターをのぞき(メバルがストーカーみたいだな
過去に何があったかを見て驚愕。
辛すぎる、、、、、、
中の人同士での会話がはじまって、
今回のストーリーが完成しました!!!!
春輝は、半分乗り気じゃなかったけど、
(この事で悩んでたから夏祭り予定出ても行くのやめようとしてたりした)
千雪が笑ってくれたり本心をぶつけてくれたので…
きっと次回頑張ってくれるはずです!!!
みんな、その時は応援してあげてください。
というか見守ってくださってる方々本当にいつもありがとうございます。
救いになるとは限らないので、
ドキドキハラハラしてもらえたらなぁと。
長く語れないんで、
また次回をお楽しみに!!
ではまた。
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