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「最近、キレイになった?」
休日、遅めの朝ご飯の片付けをしていると、夫の口からそんな言葉が飛び出した。
愛情表現の乏しい夫がそんなまさか、と思いながら振り返る。
「あ、いや、お風呂場。掃除してくれたんだよな」
途端に視線を外されスマフォをイジり始める夫。
ほらやっぱりだ。
化粧品を変えて肌の調子が良いというのにちっとも気が付かない。いや、それどころか毎週お風呂場を洗っていることにすら気付いていない。初いところも最初は可愛いと思ったけれど、どこが良くて結婚してしまったのだろうか。
自棄になってエプロンを投げつける。
「どうしたの?」
「なんでもない」
適当にあしらい、お気にの外着に袖を通す。
どこへ行くわけでもないのに化粧して、誰と会うわけでもないのに髪をセット。
「どこか行くの?」
ようやくなにかを感じ取った夫が聞いてきた。
けれど手遅れ。
「買い物……一時間ぐらいで戻る」
それだけ言って家を出た。
結婚して早三年。
交際期間が長く、気が付けば二人ともアラフォー。
妥協で結婚したわけではないけど、彼でなければならなかった理由もなかった。
一生独身でも全然平気だった、と言えばウソになる。
同級生の出産ブームで焦っていた、のかもしれない。
両親からのプレッシャーが、なかったわけではない。
結婚すれば恋愛みたいに色々悩まないで、一生その人といれば良いと思っていたけれど、逆に悩みが増えた気がする。
もともと愛情を言葉や行動に出すのが少ない人だとは知っていたけれど、結婚を機に更に減ったように思う。
「私は褒められて伸びる女だぞーっと」
スーパーの駐車場に車を停めて下りる。
どうして買い物に行くのに「付き合うよ」ぐらい言えないのだろうか。
自動ドアを潜ってカートにカゴを乗せる。
荷物持ちぐらいしてくれたらいいのに。
一週間の献立メモを見ようとポケットに手を入れスマフォを、
「あ、忘れた」
きっと着替えた時だ。自棄になっていて置いてきてしまった。
イライラしても始まらないので一旦深呼吸。
気を取り直してスーパーを一周。思い出せる食材を詰めて、最後にスイーツを一つカゴに入れてレジへ向かう。
ピッピと通して、サッサと詰める。
一杯のレジ袋を二つ下げて、再び車のエンジンをかけた。
「お帰り」
家に戻ると、ダイニングのソファーで横になった夫がのんきにのんびり言ってきた。
「ただいま」とだけ言って冷蔵庫へ。
「そういえば、スマフォ忘れていかなかった。鳴ってたよ」
「あー、うん。ありがと」
食材をしまって脱衣所に放置されたスマフォを手に取る。
着信は、夫からだった。
いや、お前かよ。と思いながらもメッセージを開く。
『ごめん、さっきの話。実は君のこと。恥ずかしくて』
そんな短いメッセージが届いていた。
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