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悲劇の再会
現場検証と感染予防対策とやらで自宅兼町工場には帰れない。まさか生まれ故郷に宿泊するとは…。
「心中お察しします」
説明に来た警官は言葉を濁した。父は遺体袋ごと火葬された。遺族は立ち会えない。骨壺から感染者が出たという。そのまま、特殊産廃物として処理場行きだ。なるほど、弟が狂うのもわかる。あれほど遭いたがっていたのに。
父と弟の誕生日は偶然にも同じだ。疎遠だった二人が再接近した理由は言わずもがな。父は自粛で受注を失い、弟は首を切られた。職場にクラスタが発生した。帰るなの大合唱を無視して父は暖かく彼を迎える…予定だった。
「ただいまー」と父の居場所を尋ねてみれば本人がクレーンからぶら下がっていた。
鑑識課と検死見分の結果、自殺と断定された。父の工場が内側から厳重に施錠され、周辺の防犯カメラにも不審者の姿がない。格闘創や防衛傷はなく、遺体から毒物も検出されなかった。頸部にワイヤーロープによる圧迫痕があり、本人が戯れで自縄自縛したことで突然死を招くような疾患も病歴もない。
弟の「異母の糸――うんぬん」は精神ショックによる妄言とされた。そして「予後不良」と判断されグループホームが見つかるまで加療入院することになった。展開と情報量が多すぎて平常心を保つのが精一杯だ。
「家族さんでも面会はできません」
タブレット越しにケースワーカーが冷たく告げた。
本人は薬で人工的に眠らされている。体で最も酸素を消費する大脳は治療の妨げになるのだという。当分は寝たり起きたりで緩和治療を進め、起床を目指す。そしてリハビリで歩行を回復し、安定したら余生をグループホームで過ごす。
「せめてスマホだけでも!」
俺が食い下がると「パソコンもタブレットも携帯ゲーム機も厳禁です」、とつれない。頭を使うキカイは一切禁止なのだそうだ。
不可解だ。
父親は何かメッセージを残さなかったか。遺書が無いならせめてダイイングメッセージだけでも、と再び警察にかけあった。
「ご遺体とロープ以外は何も…他殺の証拠も…」と警察は他人事のようだった。
ますます不可解だ。
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