第四話 墜落現場

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第四話 墜落現場

 施錠された鋼鉄の扉がある、四方が石壁でできた薄暗い部屋。  外界との接点は、僅かな換気口のみ。  その換気口にさえ鉄格子が嵌められていた。  男は、薄暗い部屋の中で握り拳を床に当てて腕立て伏せを行い、ひたすら自らの肉体を鍛え続ける。  突然、鋼鉄製の扉の小窓が開く。  息遣いの荒い男に対して小窓から告げられる。 「7784番、出ろ」  金属が擦れる音と共に重苦しい鋼鉄製の扉が開かれる。  男は看守によって独房から出される。  『特等刑務所』  海賊などの凶悪犯が収監される警戒厳重な刑務所であった。  男は看守と共に小部屋へ通される。  男は椅子に座り、両脇に看守が立つ。刑務所長が男の対面に事務用机越しに椅子に座っていた。  刑務所長が淡々と男に告げる。 「囚人番号7784番、無宿人 ジカイラ。革命政府が、収監以来、模範囚であったお前に対して『再教育プログラム』を適用するように当特等刑務所に通達してきた」 「貧困から犯罪に走り、法を破り罪を犯したお前ではなく、貧困そのものを作り出した貴族社会が犯罪の原因との事で『革命は万人に平等をもたらす』のだそうだ」 「よって当特等刑務所は政府通達に従い、囚人番号7784番、無宿人 ジカイラに『再教育プログラム』を適用する」 「身柄は直ちに革命軍士官学校へ移されるものとする」 -----  ジカイラは目が覚める。 (・・・また、あの時の夢か)  ジカイラが周囲を見回すと、幌馬車の中であった。  傍らではヒナが穏やかな寝息を立てている。  ジカイラはヒナを起こさないように幌馬車から外に出る。  ジカイラが外の景色を見渡すと、朝日が地平線から昇り始め、朝焼けの空が広がっていた。  全員が起きてきて朝食を取った後、ジカイラ達は幌馬車で北西街道を進む。  昼近くなった頃、北西街道の付近に異様な光景が広がる。  ジカイラが幌馬車を止めて、皆に話し掛ける。 「・・・墜落現場だ」  ヒナが驚く。 「ここが!?」  ティナも口を開く。 「ここが革命政府の輸送飛空艇が墜落した場所ね!」  ケニーも幌馬車から降りて、墜落現場を見渡す。 「まだ、飛空艇の残骸があるね」  ルナも周囲の木々が焼け焦げ、飛空艇の残骸が広がる光景を見て驚く。 「・・・凄い」  ジカイラ達は、幌馬車から降りて、革命政府の輸送飛空艇が墜落した現場を調べる。  ケニーが飛空艇の残骸を見て口を開く。 「・・・流石にバレンシュテット帝国製は頑丈だな。船室は壊れないで残ってるよ。メオス製の飛行船なら木っ端微塵だっただろうね」  ジカイラが船倉の残骸を調べると、船倉は既に空になっていた。 「流石に金貨は残っていないな」  ヒナが口を開く。 「金貨は、帝国軍の地上部隊が回収したみたいね」  ティナがジカイラに話し掛ける。 「船室が無事って事は、革命政府の奴等は生存していたのかも」  ジカイラが答える。 「・・・だろうな。現に革命政府の軍事委員コンパクと秘密警察長官グレインは生きていて、逮捕されている」  ジカイラが北西街道の先を見ながら続ける。 「そして、他の革命政府の生き乗りは、『港湾自治都市群』へ逃げ込んだって事だな」  ジカイラ達は、墜落現場の探索を終え、昼食を取ると、再び、幌馬車で北西街道を進む。  夕刻になり、夜の帳が下りてきた頃、ジカイラ達はドローウェンの町に着いた。  一行は、酒場も兼ねている町の宿屋に宿を取る。  宿屋は、一階が食堂兼酒場になっており、二階が宿泊できるようになっていた。  ヒナ、ティナ、ルナ、ケニーは円卓席に陣取って、夕食を取る。  ジカイラは、カウンターに行くと、酒場のマスターに酒を一杯奢る。 「マスター、オレからの奢りだ」 「ありがとよ」  ジカイラはマスターに話し掛ける。 「『港湾自治都市群』の事を聞きたいんだが」 「『港湾自治都市群』?」  酒場のマスターは訝しむ。 「ああ。オレは、しばらくムショに居たんで娑婆の事に疎くてな。最近はどうよ?」  ジカイラの嘘の説明に納得した酒場のマスターが話し始める。 「帝国政府が復活して、革命政府があった頃のような景気の良さは無いらしいがな」 「どこの港もか?」 「そうだな・・・。『港湾自治都市群』は、デン・ヘルダー、エンクホイゼン、エームスハーヴェンの三つの港が中核なんだが、どこの港も荷の扱い量は減っているようだ。皇帝の『禁止令』が原因らしい」  「皇帝の『禁止令』」という言葉にジカイラはピンと来る。 (ラインハルトが麻薬取引と奴隷貿易、人身売買を禁止したからな)  ジカイラが適当に話を合わせて、マスターに尋ねる。 「『港湾自治都市群』に一時期のような勢いは無いって事か?」 「そうさ。最近じゃ、中小の港や街が『港湾自治都市群』から脱退して、帝国への帰属を求めるような動きも出てきていると聞く。今じゃ帝国のほうが金回りも景気も良いからな」  皇帝になったラインハルトは、国内産業の育成と公共事業によるインフラ整備、主要都市間鉄道の敷設、飛行場の建設などに力を入れた。  帝国の発展した産業と公共事業は、集中した資本を再分配し、帝国国民は豊かに暮らすことが出来るようになった。  マスターの話にジカイラは考える。 (ラインハルトが皇帝になって、『港湾自治都市群』は経済力も影響力も落ちているって事か・・・)  ジカイラは、冗談交じりにマスターに「カマ」を掛ける。 「食い詰めた『港湾自治都市群』が帝国相手に一戦おっぱじめるなんて事は無いだろうな? これから行くのに戦なんて御免だぜ?」   マスターは考えるように答える。 「まぁ~、『港湾自治都市群』が落ち目になっているとは言え、港街が束になって戦ったところで、強大な帝国軍に勝てるはずが無いだろ? 帝国海軍(ライヒス・マリーネ)を擁する帝国が海上貿易を独占している事は昔のままさ。それくらいは自治領主達も判っているだろうし。万に一つも戦争が始まる事は無いだろうよ」  マスターから一通り話を聞いたジカイラは会話を切り上げる。 「そりゃそうだな。ありがとよ」 「あいよ」  ジカイラは仲間達の席に戻る。  ティナがジカイラに話し掛ける。 「マスターと何を話していたの?」 「ちょっと情報収集」    ヒナも会話に混じってくる。 「何か面白い話は聞けた?」  ジカイラが答える。 「ラインハルトが出した禁止令で『港湾自治都市群』は不景気らしい。最近は、中小の港や街が『港湾自治都市群』から脱退して、帝国への帰属を求めるような動きも出てきているみたいだな」  ヒナが考えながら話す。 「それって、ラインハルトさんが出した禁止令が『港湾自治都市群』を追い詰めているってこと?」  ジカイラが答える。 「そういう事だな。裏を返せば、『港湾自治都市群は、麻薬取引、奴隷貿易、人身売買で儲けていました』ってことさ」 「ふぅ~ん・・・」  ルナは感心したようにジカイラの話を聞いていた。  
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