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それはあまりにも一瞬の出来事だった。
高橋が願い事を言った直後、
ポケットからバタフライナイフを取り出すと
一気に自分の胸へと突き刺した。
高橋は後ろ向きにバタンと音を立てて倒れた。
「おい!高橋!」
慌てて駆け寄る。
高橋の胸からはドクドクと血が溢れている。
「しっかりしろ、高橋
こんなところで死んじゃならん!」
高橋の胸を押さえながら中里は叫んだ。
「中…里さん…すみま…せん…でした…」
力無く高橋の口が動く。
「もういい、喋るな、すぐに助けを呼ぶからな」
「僕の…願い…叶う…かな…」
その言葉を最後に高橋は事切れた。
「高橋…おい!返事をしろ、目を開けろ!」
中里の叫びは届かない。
中里の心の中には悲しみやら怒りやら無念さやら
様々な感情が渦巻いていた。
おそらく高橋は妹を失ったショックと人を殺めてしまったショックで幻覚を見て心を病んでいたのだろう。そして関係のない人まで手にかけてしまった。
中里は横たわる高橋の遺体をそっと抱き抱えると
高橋が願いを込めた空を見上げた。
そこには満点の星があり
中里の心模様のように無数の星が降り注いでいた。
完
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