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少しだけ、待って。
「冷静に。」
「冷静だよ。」
「いや、アタシの方!」
至近距離で見つめ合ったまま。
ちょっとしか酸素取り込めない状況だけど、息を吸う。
「アタシって今、もしかして告られてる、ってやつ、なのかな」
「・・・思いっきり告ってるよ。俺、真面目にテンパってる」
これが、演技だとしたら、こいつすげー俳優になれると思うよ、うん。
今のこの体勢からすると、AV男優の方が妥当かもしれないけどさ!!
「やばい、ほんとに・・」
「え?・・わっ!・・えっ?」
いきなり伊勢谷に腕を引っ張られて
「そんな目で見られたら、冗談抜きで襲いたくなるでしょ」
ソファーに座らせてくれた。
「じょ、冗談なのっ!?」
今までのことが冗談だったと思うと、怒りより呆然として固まる
「そんなわけないでしょ。襲われないとわからない?」
「いえ、あの確認したまでであって・・・。」
アタシの目から視線を逸らさず、膝まづいたと思ったら、靴を脱がせて、自分の靴を脱ぐ。
「いや、あのさ、靴脱がしていただかなくても」
帰りたいんだけどって言いたいのに
「ごめん、柊・・」
隣に座って、折った膝の上に腕を乗せて、肩を落とす伊勢谷。
「ほんとに、ごめん・・・」
なんで、あんたが力尽きてるわけ?
アタシの方が、よっぽど脱力感なんだけどっ!!
ブレザーの胸ポケットからアタシの眼鏡を取り出して
「はい、これ」
差し出された眼鏡を黙って受け取って、耳にかける。
「俺、こういうの初めてで、どうしていいのか、わかんなくて」
参った・・って顔して笑ったんだけど
その笑顔が、すごく、辛そうで・・
「こ、こんな誘拐みたいなこと、何度もやってたら怖いよね」
言ってる意味は、よくわかんないけど・・
悲しそうな伊勢谷を見てると、なんとなく切なくなって、笑いながら言うと、
「フ・・そうだね。」
笑いながら言って、2足の靴を持って立ち上がる。
「とりあえずさ、お詫びとして、何か奢らせてよ。何が食べたい?」
「いや、いいってば。ほんとに」
また、目が合って
伊勢谷の目が、細められた。
「ここで帰したら、多分、柊は明日から俺を避けるでしょ?」
「ぬ?・・・そんなことはないと思うが。」
なんつーか。
なんとなくなんだけどさ。
「今日だけは、誘拐された人らしく、付き合ってくれない?」
「・・なんか、ヘンじゃね?それ。」
完璧王子の伊勢谷のくせに、怯えてるような。
「何、食べたい?」
「・・・カ、カツ丼」
このまま帰ったら、すごく可哀想な気がして。
「美味しいお店知ってるんだ。」
「じゃ、それで。」
嬉しそうに笑う王子伊勢谷に、あとちょっとだけ付き合ってやるか
この時は、ただ単に、そんな気持ちだったんだ。
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