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「DVDはここ。好きなの選べばいいよ。」
「うっわ。なんなのこの量っ!」
アタシはカツ丼、伊勢谷は天丼、プラス2人で食べようってことになった野菜炒め
伊勢谷が美味しいと言うお店に出前を頼んでくれた。
「映画に興味あった時期があって、気がついたらこうなってたんだ。」
「へー」
食事が届くまでの間に、DVDを選ぶことになったんだけど
「後は、父親のをもらったものだから古いものも多いかも」
「ほー」
でかいTVとオーディオセットに設置された収納庫には
ものすげー量のDVDとものすげー量のCDがありまして
「・・・目が、チカチカしてくるよ、うん。」
「ゆっくり選べばいいよ(笑)」
伊勢谷は、ずっと笑ってる。
だけど・・・
「一人暮らしなの?」
ワンフロアの大きな部屋を見渡してみると、どう見ても伊勢谷のスペースっていう間取り。
それを聞いた途端、伊勢谷から笑顔が消えた。
「うん。またゆっくり話すけど色々あってね。」
寂しそうな声で言った伊勢谷が気になった。
またの機会に。
聞かせてくれるなら、聞こうと思った。
なんとなくだ。ほんとに、なんとなく、そう思った。
「またすごい量の本だね」
書斎スペースみたいなPCが2台ある机の奥には、バカでかい本棚がある。
全英訳の本だ、法律関係の本だ、経営学についてだの・・・バスケの漫画もあるけど(笑)
「これ全部読んだの?」
「一応はね」
「ハハハハハ」
「なに?その笑い(笑)」
「もうね、伊勢谷が伊勢谷すぎて、笑っちゃっただけさ」
キッチンに立って
「冷たいお茶でいい?」
なんて、飲み物を作ってくれている伊勢谷に笑顔が戻ってホッとした。
「それにしてもさ、やっぱりというべきか、すげいピアノだね」
ワンフロアのど真ん中には、存在感抜群なグランドピアノ。
「最近はギターの方が多いかな。お茶、ここに置いとくよ」
「あ、うん。ありがとう」
ソファーに座って、こっちを見てる伊勢谷が
「柊はギター弾かないの?」
音楽をやってるアタシのことを知ってるから聞いてくる。
「んー。今のとこはまだ考えてないかな」
アタシが、コンタクトではなくて、瓶底眼鏡で素顔を隠す理由も知られてしまってる。
「コードだけ覚えちゃえば、柊ならすぐ慣れるよ。」
「んな簡単じゃないでしょーに」
「俺で良かったら教えてあげられるし」
「まぢでっ?」
「うん、もちろん(笑)」
だからなんだと思う。
胡散臭かった笑顔が、胡散臭くなくなったのも。
なんやかんや、こうして気楽に話せてしまうのも。
アタシが学校に隠してることを知ってても、何も言わずに黙っててくれる安心感と信頼感
生徒会でも、ヤクザ教師に用事を任されることになった頃から、大丈夫だって言ってんのに、なにかと助けてくれてるのもわかってた。
なんか裏があるんじゃないかって、警戒してた時期もある。
だけど、何を見返りに要求されることもなく、いつもと変わりない王子スマイルを向けてきて、バカみたいにいつもずっと優しい伊勢谷で。
そして今日、突然の告白だ・・。
なんだかまだよくわかんないけど。
伊勢谷と一緒にいることは嫌じゃなかった。
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