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あーでもないこーでもない、文句言いながら
伊勢谷から伝わる、半信半疑な気持ちが嬉しかった。
生意気なこと言ってながら、伊勢谷との時間は楽しかった。
「前々から思ってたんだけど、箸の持ち方綺麗だね。」
「伊勢谷には言われたくない。嫌味なくらい指長いし」
出前が届いて、2人でカウンターに並んで食べてる。
「指の長さとかじゃなくて(笑)」
「お箸の持ち方だけは厳しかった。父親がアメリカ人だからなのかも知れないけどね。」
「俺ね、箸をちゃんと持てない子、苦手なんだ」
「あーわかる!アタシもきっと、自分の子供には厳しくしちゃう予感するよ」
「・・柊の子供、か」
「くっそ生意気なんだろうね。」
「あはは!めちゃめちゃ可愛いよ、きっと。」
「うっわ・・ちょーいい加減なこと言ったね、今」
「少しは俺の言うこと信じてよ(笑)」
伊勢谷は、優雅に、天丼を食べる男だ。
「勉強しろとか言われたことないんだけど、食べ物を大事にしろとか、食に関してはうるさかったかな。」
「大事だよね。」
「うん、すごくすごく感謝してるよ。」
綺麗な手で箸を持って、イカの天ぷらを挟んで口に入れる
「左利きって、じっくり見ると不思議だね。」
「・・・そう?」
ちゃんと飲み込むまで、言葉を発さないマナーも身についてて
「書くときは右利きだよね?」
「よく知ってるね(笑) 両利きなんだけど、字は右の方が楽だし上手く書ける
からついね。」
「男のくせに字、上手いもんね・・」
「男のくせに、は、偏見だと思うけど(笑)」
食べたいだろうに、アタシの話に、わざわざ付き合ってくれる。
「柊・・」
「あ・・」
「うん。そんなにガン見されると食べにくい(笑)」
「ごめん。見蕩れてた。」
「エビを狙われてるのかと思った(笑)」
「狙ってないから。王子伊勢谷が、天ぷら食ってるよーって、心の中で笑ってた。」
「ひどいよね。俺、なんだって食べるから。エビ、食べる?」
「そんな大事そうに最後まで残しておいたエビ、アタシが食べたら伊勢谷泣いちゃいそうだからいい。」
「男は簡単に泣かないよ。はい、口開けて」
「いや、いいって。」
「照れるとこっちまで伝染するでしょ、早く。」
・・・・・・・・・。
有無を言わせない目で、エビを口元に持ってこさせられて・・
「おいしいでしょ」
恥ずかしくて、エビを噛みながら、頷くしかできなくて
「もっと?」
首を横に振ると、
「関節キッスで我慢だよ、俺。」
なんて言いながら、エビを食べる伊勢谷。
「・・・・ほんと、どSだよね。真面目に困るくらい、どSになるよね。」
「そんなことないよ(笑)」
楽しそうに笑う伊勢谷に、敗北感満載だけど
カツをひと切れ伊勢谷のドンブリに乗せると、すごく嬉しそうな顔をして
「ありがとう」
なんて、言いやがるから・・・
「・・・胡散臭ぇ」
なんとなく、恥ずかしくなってしまって
ついつい、憎まれ口を叩いてしまうんだ・・。
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