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「見た目は『盛った珍獣』のようには見えないが」
TVや雑誌ではなく、俺の前に立つ2年ぶりに見る奏
フィット感ある長袖Tシャツと細身のジーンズ
普段着なのに、スレンダーな身体が際立っていて
髪を簡単に上げているからか、ボーイッシュなのに色っぽい
耳には俺がプレゼントしたピアス
胸元には、お揃いのネックレス
それより少し長いチェーンには、お揃いの指輪が吊るされている
「色々だらしない噂が絶えないそうですね。盛りのついた猫のように」
恭介の凍るような視線に怯むことなく
凛とした態度で、綺麗なダークブルーの瞳で見つめ返している
「歌は素晴らしいのに、実に残念だ」
恭介の嫌味な態度にも、失言に対しても
「ありがとうございます」
なんて、平然とあしらってしまっている
俺が知ってる以前の奏なら
『なんだと、こら』
なんて言いつつ、食ってかかってたと思うのに・・
「・・・僕が言ってることの意味、わかっててお礼言ってんの?」
吹っかけた恭介の方が怯む程に堂々としていて
「歌は素晴らしいって言ってくれましたよね。その言葉に対してですけど」
少し微笑んで言う奏は、すっかり大人の女性で
最高にカッコ良いプライドを持ったシンガーに成長していた
「恭介、お前の負けだな」
恭介が吹き出した イコール 観念したということ
「俺の奏は、お前が思ってるような女じゃない」
『俺の奏』っていうフレーズを、人前で胸を張って言える喜び
「あ、さひ」
逢いたくて仕方なかった人が、俺を見た
愛しくてたまらないダークブルーの瞳が俺を捉えた瞬間
さっきまで凛としていたカッコイイ女性が
珍獣的本能をあらわにさせる勢いで、俺に飛びついてきて
号泣しだした
その場にいたスタッフは皆、唖然
「ばかやろう・・」
「ごめん、奏・・」
奏のマネージャーの松岡さんまで呆然と固まっていて
恭介は優しい目で、泣きじゃくる奏を黙って見てたんだ
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