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パーティー会場に入った途端、報道陣のカメラフラッシュの嵐
今まで奏への配慮もあって、こういう前面に出ることを最低限に避けてた俺
インタビュー雑誌の取材を、ワンダーワールドの宣伝を兼ねて受けたくらいかな
正直、苦手だ
常に撮られている感覚に、気が休まる暇がない
だけど今日は、奏は俺のものだと知らしめる為の儀式
わずか2時間程だ
それくらい我慢しよう
そんな気で、結構、構えて挑んだのに・・
「湿布見えちゃってないかな」
「やべぇ、キスマークをホクロ毛にすんの、すっかり忘れてたぜ」
「アタシの後ろを撮るな、うなじのヤツは手つかずなんだ」
俺の腕に手を回し、堂々と歩く奏は、さすがに手慣れていているけど
優雅に微笑みながらも、ゴルゴのようなヘンテコな独り言を言い続けていて
後ろを歩いている恭介は、笑いを堪えるのに必死で、口に拳を当てて肩を震わせている
眩しいくらいのフラッシュの中
隣に奏がいるだけで、緩む頬
爽やかに微笑みながら、むたくそな独り言
笑いを堪えるのも無理すぎて
苦手だったはずなのに、楽しくて仕方ない俺
「本日はお忙しい中、ご足労いただき、誠にありがとうございます。」
堅苦しいものはなしで、というのを大前提に、早々に乾杯
お酒も食事も、ある程度進んだタイミングを計り
約300人を前に、奏と2人、ステージに上がった
「私、伊勢谷朝陽と柊 奏は、高校時代の初恋を、8年という年月をかけ、ゆっくりと育み、この度、婚約することとなりました。」
一歩後ろに立つ隣の奏を見ると、優しい微笑みがそこにある幸せ
「入籍と挙式については、互いのスケジュールとの相談ですが、来年の6月を予定しています。まだまだ未熟な2人ですので、これからも今までと変わらず、ご指導ご鞭撻をいただきますよう、お願い申し上げます。」
2人で会場に向かって頭を下げる
「奏の熱愛報道を含め、誤解が生じているみたいなので、何かあれば遠慮なく聞いて下さい。余興としてお答えします(笑)」
やましいことが、あるわけでもない
何ひとつ、隠すことも疑われることもない今
6年もの間、地獄のような寂しさを味わった俺と奏
今更、邪魔されたところで壊れることはないと、堂々と胸を張って主張する
幸せそうに、笑いながら
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