Just a Kiss

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「なかなかいいでしょ。これ観ながら、ぼーっとしてること多いんだ」 やっぱり、夜景に目が行ってしまう。 横に立って、夜景を見つめる伊勢谷の横顔が、なんとなく寂しそうに見えた 「一人暮らしで、寂しくないの?」 思わず、口にしてしまった言葉に、伊勢谷がアタシを見る。 聞いたらいけなかったかなって、ちょっと思ったけど・・ 「もちろん、寂しいと思うこともあったけど、虚しいって思うことの方が多かった、かな」 悲しそうな伊勢谷の目が、僅かに、揺れた気がした。 「でも最近は、そんなことも思わなくなったんだよ。虚しいとか、寂しいとか、思わなくなった。」 伊勢谷が、優しく微笑む。 「柊のおかげなんだ」 ・・・え? 「柊のドジなところとか思い出すと、笑っちゃってるからさ」 こ、このやろう。 無意識に口を尖らせたアタシの顔を見て、吹き出して笑ってる伊勢谷を睨む。 「柊もシャワー浴びてきなよ。」 「う、うん。」 「好きなもの好きなだけ使って。男物だけど」 「ありがと!」 バッグから着替えを取り出して、バスルームに向かう。 ユニットバスではなくて、広めのお風呂。 男の子の一人暮らしなのに、綺麗だ。 伊勢谷が使ってるシャンプーやボディーソープ。 自分の体が、伊勢谷の匂いに包まれた気がして、なんとなく嬉しく感じた。 シャワーを借りて、髪を乾かした後、リビングに戻ると 「そういえば、昨日、青となんかあった?」 読書をしてた伊勢谷が本を閉じながら聞いてきた。 「なんか言われた?」 伊勢谷の隣に座って聞くと 「大穴すぎて親近感沸いたから応援するって言われたよ。」 「・・大穴とはなんだ、あのやろう」 そりゃ伊勢谷なら、あのご令嬢みたいな人を選ぶのが当たり前だと思われてたでしょうよ。 ・・・むかつくけど うまい表現だな、なんて思う自分もいて。 「啓太が伊勢谷とアタシのこと暴露った。」 「やっぱりそうなんだ(笑)」 「それだけじゃなくて・・・」 「ん?」 「いや、なんでもなかった」 バカ正直に、ご令嬢のことも口が滑るとこだったけど、別に言わなくてもいい問題だなって思った。 実際、アタシにだって、あの人の言いたかったことを、理解してるわけでもないし、言ったとこで説明しづらい。 「なに?言って。」 「なんでもないよ」 だから、別に、なんてことないこと。 「言わなきゃ、耳噛むよ?」 耳元で小声で言われ わざとなのか、耳に息を吹きかけられた瞬間 「ひゃっ!」 変な声が出てしまった・・ 「イイ反応(笑)」 こ、こいつ・・ このやろう・・ 「ぜってー、言わない!」 大笑いする伊勢谷を睨んで、ピアノの椅子に腰を降ろす。 「弾いていい?」 「弾けるの?」 「伊勢谷ほどの腕前はない!」 「あはは!そんな正々堂々と(笑)」 大好きな『Tomorrow never knows』を弾きながら歌う。 伊勢谷は、ソファーの背もたれに顎を乗せて、じっくり聴いてくれていた。 ちょっと照れるけど、音楽を知ってる人が嬉しそうに聴いていてくれると嬉しくて・・ 「大好きなんだ、この曲」 「俺も。完成度の高い名曲だと思う。」 「そうなんだよ!時代に似合わず、すごいと思った!」 「ねぇ、柊、『All For Love』歌える?」 「『Lady Antebellum』の?」 「そう!歌ってくれる?」 「歌詞が100%じゃないけど歌える!でも・・」 「待ってて。」 PCを起動させて、多分、譜面と歌詞をプリントしてる伊勢谷。 「あの曲はチャールズ・ケリーさんがメインだと思うのだよ。」 「柊、ピアノね。俺、ギターでいくから。」 「本気?」 「本気と書いてマジと読む、だっけ?(笑)」 「うはっ!頑張ってみる(笑)」
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