Just a Kiss

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うわぁ・・ うわぁ・・ うわぁ・・ なんなの、この人・・・・。 真面目に、唖然呆然だ・・。 この曲 低音から静かに始まり 中盤からサビにかけて、徐々に1オクターブ以上ガンガン上がってく。 女性パートは何のことはない、普通に出るキーだ。 だけど男性パートはかなりの難易度。 下手に歌えば、一発で声帯やられてしまう。 それを、だよ。 英語の発音も、音程も、完璧。 しかもギターを弾きながらって・・・。 「すげええええええ!伊勢谷、すげええええ!」 歌を歌ってバイトしてるアタシが、鳥肌が立った。 だのに伊勢谷は・・ 「柊、やっぱりすごいね!ピアノもすごく上手で驚いたよ(笑)」 なんて、言ってくれちゃうんだ。 「伊勢谷・・・将来、何になるの?」 「ピアノを弾きたいとは思ってるんだけどね、多分、無理なんだと・・」 「絶対に、音楽の道に進んだほうがいいよ!!!」 「ぶはっ!」 「ものすごくいい!伊勢谷の声、めちゃめちゃ好き!」 「柊にそう言ってもらうと、本気で照れるから(笑)」 「やべぇ・・ほんと、びびった・・・」 「目、見開いてたね(笑)」 「瓶底がずれるくらい目ん玉飛び出たよ」 「あはは!」 「見て、このさぶイボ・・・まだ引かない・・・」 「この曲、好きで歌いたかったんだけど、なかなかいないじゃない?歌える子。」 「周りプロばかりだと、気楽に一緒に歌ってとか頼めないしね」 「そうそう(笑)」 「わかるわかる」 「柊、ギター少しやってみる?」 「いいの!?」 「もちろん。」 2人で、笑い合う。 伊勢谷がメロディーを弾いてくれて アタシがコード譜を必死に頑張って弾いて 2人で一緒に、『Tomorrow never Knows』を弾いた。 伊勢谷が惜しみなく歌ってくれて・・ 「さすが優等生。飲み込み早すぎ(笑)」 「万年2位ですけどねー」 なんて笑ってた。 でも、なんでだろう。 ものすごく、怖くなるんだ。 無性に、怖くなってくるんだ。 ピアノはバイオリニストだった父さんと、ピアニストな母さんに強制的に始めた。 それから、声帯が特殊だからってことで、歌えって言われて歌わされたのがきっかけ。 言ってみれば、音楽家系。 特にかーさんは細かいことうるさいんだ、あー歌え、こー弾け。 歌うことは好き。 でも・・ こんな風に、自由で。 こんな風に、褒めてくれて。 一緒に笑いながら、楽しみながら付き合ってくれる人なんていなかった。 「ありがとう、伊勢谷」 「どうした?いきなり」 楽しい分だけ、ふと寂しくなるのは、なぜなのかな。 「どうしたの?柊。」 さっきまで笑ってたと思ったら、いきなり元気をなくした面倒極まりないアタシを心配そうに、問いかけてきてくれる。 ただそれだけでも、すごく嬉しいことなんだよ、伊勢谷。 「楽しすぎて、守られすぎて、弱くなりそうで、生きていけなくなりそうで、怖いんだ・・」 涙をこらえて、伊勢谷を真っ直ぐ見て言ったんだ・・・ 「それは、俺がいなくなってしまったら、ってことを想定しての気持ち?」 伊勢谷が、アタシをじっと見たまま、静かに言う。 「・・こんな風に、してくれる人・・いなかったからなのかも・・」 うまく、言えない・・ 「多分俺は、柊が今まで生きてきた過程での防衛手段を壊してしまってるのかな。ごめん、柊。」 ・・・どうしてこの人は 察してくれるんだろうか。 「でも俺は、ひとりで何でも背負う不器用な柊を放っておけない。だから俺の精一杯で世話を焼くし優しくする。だめかな。」 こんなに優しくされたことがないから こんな風に、ちゃんと話を聞いてもらったこともないから 「柊?」 「伊勢谷のことが、バカみたいに好きだから余計に・・」 怖いんだよ 泣きたくない。 弱いやつだって思われたくない。 だのに・・・ 涙が溢れてきてしまうんだ。 これって・・・ すでにもう、弱くなってしまってる証拠なんじゃないのかって そう思ったら、見られたくなくて 下を向いて、隠そうとした途端 「あー、もう!」 腕を引っ張られた。 あっという間に、伊勢谷の横に座らされいて アタシの頭は、伊勢谷の胸に押しやられている・・・
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