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「いなくならないよ。柊の前から消えたりしない。柊のこと手放してなんかやらない。」
「そんなの・・わからない・・明日には気持ちが冷めてしまうかもしれないじゃん。今の気持ちだって一時の気の迷いって可能性だってあるでしょ」
まさに、涙腺崩壊というやつだ。
惨めだ、なんか。
困らせてる。
これじゃ・・嫌われてもおかしくないのに・・
だけど不安になる。
止められない。
「聞いて、柊。」
でも伊勢谷は、どこまでも優しい。
ドクン、ドクンと、大きく波打つ鼓動が伝わる。
伊勢谷も、ドキドキしてくれてるんだ・・・。
「柊は、俺にとって初めて好きになった人だから、恋愛経験が全くない俺は、こんな風に好きな子が泣いてる時、どうしてあげたらいいのか、正直、正解がわからない。」
少し震える伊勢谷の腕が教えてくれる。
少し力が込められた腕から伝わる温かいぬくもり。
「このままでいいから聞いてくれる?」
「うう・・」
へんな声が出てしまったけど。
崩壊された涙腺の修復を心がけながら、何度も頷く。
伊勢谷の前で、泣いてばかりだな・・
顔を見られていないのが、ちょっと救いだ。
「柊に、ひとりで寂しくないかって聞かれた時、虚しかったって、俺言ったでしょ?」
ん・・・気になってた
伊勢谷の横顔が、寂しそうに見えたから・・
「俺のことはほとんど放置してる親のくせに、こうでなくちゃならない、みたいなレールだけは敷かれてた。不自由なく生活できてる。恵まれてるのは承知してるんだ。だけどただ勉強して色々な資格を取って良い子の振りして事務的な仕事をこなす。とにかく虚しかった。このまま、ずっと空虚感のまま適当に生きていくんだろうなって、どこか人生冷めてて、自分で壁を作ってる部分ももちろんあって・・。」
・・・・それが、胡散臭いと思う原因だったのかな
「柊のことが気になるって自覚してから、徐々に変わっていったんだ」
伊勢谷が、アタシの頭に顎を乗せて
「見ていたくて、話したくて、笑顔を向けて欲しくて」
伊勢谷が、アタシの頭に口を付けた。
シャンプーした後で良かった。
臭かったら、恥ずかしい・・・・。
「愛しくて、触れたくて、手に入れたくて、助けてあげたくて、守ってあげたいって思った。初めてなんだ、本気で。」
そして、強く抱きしめられてしまった。
ドキドキする。
だけど・・・あったかい・・・。
「そんな風に思える柊に出逢えたことが俺にとって何より大切なことなんだ。」
伊勢谷の言葉が、純粋に嬉しくて・・・
「柊のこと考えるだけで楽しくて、こうして一緒にいるだけで嬉しい。柊と離れるのが怖いのは俺も同じ。考えたくもない。柊がいなくなるなんて。」
同じ気持ちでいてくれることが嬉しくて・・・
伊勢谷の背中に腕を回して、シャツを握る
「まだまだ頼りないかも知れないけどさ、もっと俺に甘えてよ。」
頼りないなんてことないよ
ものすごく助けられてるよ
そんな想いを込めて、伊勢谷の背中に回した腕に、力をこめる
「・・柊」
伊勢谷の左手が、アタシの顎を上に持ち上げて
目の前には、真剣な顔をした王子伊勢谷の、美しいどアップ
瓶底眼鏡を、そっと外されて
伊勢谷の指が、ゆっくりとアタシの涙を拭き取って、右頬を撫でた
こ、これっていうのは、つまり、その・・
伊勢谷の目は、いつもの優しい目でななくて
ものすごく色っぽくて
ものすごく潤んでいて・・
緊張して
ドキドキして
視点がゆらゆらと揺れてしまってるのに、逸らせない
頬にある伊勢谷の手が、かすかに震えてるのを感じ取る
伊勢谷も、緊張してくれてるのかな
伊勢谷も、ドキドキしてくれているのかな
そう思ったら
なんだかホッとして
そして、嬉しくて・・・・
こんな場面、初めてで、どうしたらいいのかもわかんないけど
震えてしまう右手を、精一杯の勇気で、伊勢谷の肩に伸ばした
少しだけ、伊勢谷の身体が、ビクッとしたと思ったから
肩に置いた手を、離そうとした途端
「・・・奏」
初めて
名前を呼ばれて
息が止まるくらい、ドキンってなった
顔を傾けながら、目を閉じて近づいてくる伊勢谷が、あまりにカッコよくて
ずっと見ていたかったけど、恥ずかしすぎて、目を閉じてしまった・・・
肌に触れた、伊勢谷の柔らかい髪
伊勢谷の、息に、体中が、震えて
唇に
温かくて
柔らかい感触
伊勢谷とキスをしてる
頭が、そう認識したら
伊勢谷の肩を掴んでる手に力が入る
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