生まれてきてくれて、ありがとう

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生まれてきてくれて、ありがとう

手が、震えてしまうんだ 泣いてる彼女を抱きしめる腕も 瞳を潤ませて俺を見てる彼女の涙を拭う指も 小刻みに震えてしまってること、バレてるのかな それでも、抱きしめてあげたくて 触れていたくて キスがしたくて ずっと小刻みに震えてる未経験な彼女に 怖がられるのが怖くて 何度となく我慢してきたわけで。 今日だって、一人暮らしの男の部屋に ほぼ強制的に連れ込んだけど なにもしないつもりだったんだ、ほんとに。 ・・・だなんて 説得力、全くないよね。 キスくらいは、って 下心は、当然あったんだけど・・・ 触れるだけのキスなのに 心臓が破裂しそうだったんだ・・・ 『Just a kiss』 美しくて淡い恋の曲が流れる中 ゆっくり目を開けながら唇を離すと まだ目を閉じたままの彼女の可愛い赤い顔 このままソファーに押し倒したい欲望に ギリギリの理性を働かせて 彼女の額に、自分の額を合わせる 呼吸することを思い出したように 大きく息を吸って 恥ずかしそうに微笑む仕草さえ可愛くて仕方ない こんなに愛おしいと思えるものが この世の中に、存在することが嬉しくて仕方ない・・・ 寝る前のは、本気で反則だよね。 絶対に、俺は、被害者の方だと思うんだ(笑) 必死に我慢してるってのに ほんとに、柊って子にはお手上げ。 本気で、どうにかして欲しい、あの天然小悪魔め(笑) 挙句、本気のキス仕掛けといて そのまま寝ちゃうってどうなの? ほんとに、ありえない(笑) 本気で、どうにかして欲しいよ、あの可愛い珍獣(笑) 伊勢谷王子の『珍獣』捕獲作戦 土曜日の時点で、かなり広まってたらしい 学園のマドンナ大野さんの件だとか 俺が夜中、めちゃめちゃ綺麗な女性と歩いてたとか・・ これ確実にヒナリさんなんだけどね(笑) 色んな噂が飛び交ってる最中なのもあり 俺の彼女が『あの瓶底おさげ髪』 ここ数年にないくらいのビッグな大騒動になってしまったわけで・・ 今まで、世界平和がなんだかんだと言ってた柊は 『好きだから、しょうがないんだよ』 聞いている俺の方が照れることを、あっさりと言ってしまう珍獣具合。 その開き直りは、俺にとって嬉しいことこの上なくて。 調子に乗って、奏って名前で呼べば、呼ばれ慣れてないから呼ぶなって怒る。 可愛いって言えば、可愛くないからって、怪訝そうな顔して信じない。 些細なこととか、へんなことを気にするくせに ひとつひとつ、ズレてるとこが柊の魅力のひとつなんだろう。 とにかく、一緒にいて、飽きることがないんだ(笑) 「王子伊勢谷と付き合ってますけど、なんっすか」 毎日毎日、同じことを聞かれ飽きすぎて、かなり面倒くさそうな柊。 ものすごく投げやりなんだけど(笑) ちゃんと答えてくれているところを見ると、すごく嬉しく思う自分がいて。 俺は今、世界一幸せそうな顔をしてるって自信がある。 水曜の放課後 一緒に帰るつもりで柊を待たせてた校門には先輩女子生徒達。 「アタシが噂の珍獣です!すいません!もう、勘弁してくださいー!」 って、頭を下げてる姿を見た時は 可愛すぎて、嬉しすぎて 思わず、大笑いしてしまって(笑) 「なに笑ってやがんだ、このやろう」 疲れきった顔して言う柊に、その場で軽いキスをする 「この珍獣、捕獲して帰ります。では、また明日」 キスに唖然としている先輩達に、涼しい笑顔で挨拶して キスで放心状態な柊の腕を引っ張ってその場を去る。 女の子を黙らせるには、これくらいの刺激を与えないとね?(笑) そんなこんなで、俺と柊のことは たった3日で、有無を言わさない公認の仲。 学園内で、柊のあだ名は 『まさかの珍獣柊』 になったんだ(笑)
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