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楽しそうに笑う伊勢谷が気に入らなかったけど、メットを取ることに抵抗があるアタシは、伊勢谷の後ろに跨った。
伊勢谷は、アタシが瓶底眼鏡を『あえて』かけている理由を知っている。
脅迫だ、脅迫。くっそ!
「もっとちゃんとつかまってて」
メットを被って、バイクのエンジンをかけた伊勢谷
両腕を引っ張られて、自分の腹に巻き付けらされて・・・
「と、と、とりあえず、ゆっくりめで!」
バイクなんて、初めてで、こえーんだっつーの!
「怖かったら目を閉じてて(笑)」
相変わらず楽しそうな伊勢谷にムカっとしながらも、走り出したバイクにびびって、伊勢谷の身体にしがみついた情けないアタシだった・・・
「んで、ここはどこ」
バイクが止まったのはいいが、よくわからない。
って言うか、見えないんだよ!ど近眼のど乱視だから!
「わたしはだれ?」
「くそつまんねーこと言ってんじゃねーよ、誘拐犯」
「教えたら逃げそうだから教えない」
「・・・・・さようなら」
せっかくバイトが休みだってのに、こんなとこで貴重な時間を潰したくない。
地下の駐車場らしき場所から、スタスタ歩き始めると
「眼鏡はいらないの?」
後ろをついてくる伊勢谷
「いらない。捨てていーよもう。」
「見えるの?」
「近くなら見えるわ!バカにすんな!」
「柊っ!」
「んなっ!?」
いきなり、腕を掴まれたと思ったら、身体を反転させられて
抱え込まれてるっつーの、これ・・・・?
「柊はさ、なぜ俺に携番を教えてくれたの?」
「・・・は?」
両肩を掴まれたまま、まっすぐ見られてる。
多少ぼやけているけど、表情くらいはわかるんだ。
「へんないたずらとかする人には見えなかったから?」
なぜにそんな、悲しい顔してんの伊勢谷め。
「信用してくれたってことだよね?」
「そうだよ!でもこんなになってる今では後悔し、」
「ねぇ柊、ピザでも食べながらDVD観ようか。何も買ってこれなかったし」
「なぁ、おい、伊勢谷!」
いつも余裕たっぷり王子なのに。
なんでそんな切羽詰まってるの、らしくない。
「信用して、柊。キミの想像してるようなことは一切しないって誓うから」
「いや、あのな?そういうことももちろんなんだけど、そもそもだな、おい、話聞けよ、このやろう」
人の腕を強引に引っ張って、ズンスカズンスカ、建物の中に歩いていく伊勢谷
「柊と話がしたいんだ」
エレベーターに押し込まれて、多分、18のボタンを押して、アタシを見てる。
「だからってさ、ここって伊勢谷っち家なわけでしょ?」
なんでこんな流れになったのか。
「親友ってわけでもないし、付き合ってるわけでないのに、異性がいきなり家に訪問とかありえないでしょーよ!」
「そんなに気にするもの?」
「当たり前でしょ。王子伊勢谷が、瓶底眼鏡でおさげ髪のへんな女連れてきた時点でご家族が倒れるっつーの」
「今、俺が連れてる子は、めっちゃめちゃ可愛い美少女にしか見えないけど」
「眼科行け。お前も瓶底レベルだ」
今日の伊勢谷は変だ。
笑ってはいるけど、いつもの余裕がない。
何を言っても、帰してくれない空気しかない。
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