0人が本棚に入れています
本棚に追加
一体、どこから見えている景色が変わったのだろう。
ずっと同じ道を歩いていると思っていたのに。
何かが変だと気がついた時には、もう君の姿は見えなくなっていた。
「これであなたとはもう赤の他人だから」
そう言って鍵をテーブルの上にそっと置き、君は部屋を出て行く。
その後ろ姿に躊躇いはない。
しっかりとした歩みは、軽やかにさえ見えた。
僕が好きだった姿だ。
そう、この背筋がスッと伸びて近寄りがたい姿と、それとは真逆の子供のような笑顔が大好きだった。
今も、やっぱり好きだ。
赤の他人...
どうして赤なのだろう。
交わることのない人を指しているはずなのに、
運命の相手と結ばれている糸も赤い。
赤の他人同士が結ばれるから赤い糸なのだろうか。
ならば、切れた糸は何色なのだろう。
僕の指に絡んでいる糸はまだ赤い。
君が運命の人だから。君を求めて漂う赤い糸。
君の糸はもう赤くないのだろうか。
誰かと出会い、僕とは違う赤い色の糸を結ぶのだろうか。
そうか...
違う赤になるから、この赤とは他人になるのか。
行き場がなく漂う赤い糸は、だんだんと色が抜けてそして見えなくなった。
「ごめんな」
そう呟いた瞬間、ポロリと涙がこぼれた。
テーブルに置かれた鍵に、以前付いていた赤いリボンのキーホルダーはもうない。
僕の世界から、君と赤い色が消えた。
最初のコメントを投稿しよう!