四.

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「北斗七星って聞いたことある! 北極星とは違うんだよね?」 「そうそう。本来はおおぐま座……、おおぐま星宮の中に北斗星宮の都があったけど、あまりにも巨大になったから独立したんだ」 「へえ、そっかあ、星座の名前かぁ……。僕、十二個しか知らないや」 「それだけ知ってれば十分さ」  数の多さに驚いたらしいシンを優しく励ますようにクータが言う。そんな二人の頭上から、低めの声が聞こえてきた。 「お、車掌じゃねえか!」 「ん?」  立ち止まった二人が見上げると、スキンヘッドのサングラスをかけた―夜だというのに―男性が歯を見せて笑って立っていた。クータはその人が誰なのか分かっているようで、こくりとうなずいた。 「ああ、君か」 「今度差し入れ持っていきますよ。いつもお疲れさまです」 「楽しみにしておこう、君こそお疲れさま」 「うっす!」  クータとの会話を終え、彼は人ごみにまぎれていく。 「あの人は?」 「かつての客。君と同じ、あの星見列車でここへ来たんだ。見た目は怖いけど、いいやつだよ。今は、確かパン屋だ。ほら、あそこの角にあるベーカリーに入っていった」 「ほ、本当だ……」  予想では、借金の取り立て。そんな職業だと思っていたが、パン屋。全然違っていたことに、シンは内心おどろいていた。 「見かけで判断するのはよくないよ。俺と同じでね」 「クータと、同じ?」  どういう意味だろう、と聞こうとしたところで、今度は女性の柔らかい声が聞こえる。 「あらぁ、クータさん! 街を歩くなんて珍しいわね」 「やぁ、ミセス。この子を案内中だ」  長い丈の薄紫色をしたスカートに、肩の部分が少し膨らんだ長袖の洋服―ワンピース―を着ている彼女は、上品そうにほほえんだ。赤い口紅が弧を描く。
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