七.

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「……シンがここに来た理由は、それかもな」 「それ? お父さんのこと?」 「ああ。おおかた、両親が喧嘩して家出したんだろう。よくあるパターンだ」 「よくあるの……?」 「そうなってもここには来ない人のほうが多いがな」  クータの口ぶりは変わらず、軽いものだ。シンのように心配している様子はない。  と、ガタン、と音がして、わずかに二人の体が上下にゆれた。星見列車が動き始めた。 「お、動き始めたな」 「……この列車は、どこへ向かうの?」 「それは……、君が乗ってきた場所までだよ」  言葉を濁すようにいうと、すぐ立ち上がる。 「クータ?」 「車掌の仕事をしないと」 「お客さん、いないのに?」 「これから乗ってくるからね」  淡々としながらも、微笑んで答えた彼はそのまま後ろの方へと歩いていく。次の車両へ姿を消したのを見てから、また前方を向いた。淡い電気の光は優しく、列車の揺れもゆるやかで。
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