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二.
シンがきょとん、としていると、少年は差し出していた手をそのまま下の方へと向けた。人差し指が示しているのは、シンの服のポケットだ。
「ポケットに入ってるでしょ? 切符」
「え、え?」
「俺に見せたあと、ポケットに手を入れてたから」
「……えっと……」
「確かめてみて。本当だから」
そういわれたシンは、とりあえず、着ていた灰色のパーカーのポケットに手を入れてみる。カサ、と薄いながらも硬い何かが指先にふれた。それを指先でつまみ、ポケットから取り出す。長方形の紙は、全体的に白く光に反射してきらめいている。さながら、雪のようだ。
「ほんとだ……」
思わず光にあてると、うわぁという感嘆の声と共に目を輝かせる。こういう不思議な紙は、見たことがなかった。いつも見ているのは、文字の羅列。そう、教科書だ。あるいは、参考書。
「そこまで感動する子は君が初めてだよ」
「僕、こういうの、見たことなくて……すごい、きれいだ」
「そう? よかった。まあ、乗車券だから改札で回収されちゃうけどね」
嬉しそうにニコニコと彼が笑う。
表と裏の両側に印刷がしてあるが、どうやら文字が大きい方が表だと判断し、目でなぞる。
――星見列車乗車券。当期間に限り有効。
「ほしみれっしゃ、じょうしゃけん……とうきかん、ゆうこう?」
「なにせ、最初の駅からここまで丸三日かかるからね。当日限りにしちゃうと、無効になっちゃう人がいるから、“当期間”にしているんだ」
「へえ……」
思わず口にした疑問にも、彼は丁寧に答える。シンは、切符から視線を移した。
「起こしてくれてありがとう。おりないといけない……です、よね」
先ほどまで敬語を忘れていたシンは、とってつけたように、付け足した。
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