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「敬語じゃなくていいよ。その方が話しやすいだろ?」
「あ、うん、じゃあ、えっと……それで」
「うん。でね、君も分かっている通り、とりあえず降りてもらわなくちゃいけない。掃除や点検をしないといけないからさ」
ごめんね、というように彼が言う。シンは大人しくうなずき、切符を手にしたまま立ち上がった。
その時に初めて分かったが、制帽の少年の背丈はシンより少し高いくらいで、さほど変わらない。目線は同じ高さだ。それでも、彼が大人びて見えるのは、その雰囲気なのだろうか。
「ね、ねえ」
「ん?」
「君は、えっと、この列車の……運転士さん?」
「……、ふふっ、違うよ」
一瞬きょとん、とした彼はすぐに満面の笑顔になった。
「俺の名前はクータ、この星見列車の車掌だよ」
くいっ、と制帽のつばを押し上げて、目をはっきりとシンに見せる。宝石のように輝く紫色の瞳に、思わずシンは見惚れた。
「君の名前は、ナミヤシンくんっていうんだよね」
「えっ」
驚いて、目を見開く。
「なんで、僕の名前」
「俺は車掌だから、君のことは分かっているよ」
「こじんじょうほう……」
「あはは! 切符をよく見てみなよ。書いてあるから」
面白そうに笑うクータにいわれ、切符を見ると、小さく“ナミヤシン”と書いてあった。
「僕の名前……、本当だ」
「そうだろう。その切符には、持ち主の名前が書かれるようになっているからね」
そうはいわれても、と戸惑う。シン、だけならまだしも、ナミヤ、という苗字まで刻印されるものだろうか。
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