二.

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 ちょうどそのとき、ガタガタと車輪が回るような音がした。視線を車内へ向けると、人――のように見えるが、明らかに目にあたる部分にはレンズらしきものが埋め込まれている一六〇センチほどの女性が立っていた。 「クータ サマ」 「ああ、アクアス。もう全部見たの?」 「ハイ。ソウジヲカイシ、シマス」 「分かった。シン、早いところ降りよう。彼女は手荒いんだ」 「シツレイデスヨ?」 「ふふっ」  アクアス、といういかにもカタカナな名前の彼女は、ぎこちないしゃべり口調ながらもクータとの会話を楽しんでいるようだった。 「こっち。おいで」 「あ、うんっ……」  クータに言われるまま、後ろについて歩く。風がふんわりと優しく吹く。オリオン星宮、という聞いたことも見たこともない土地で感じる最初の感想は、“優しい”だった。 「それで、さっきの口ぶりだと、シンは……覚えていないのかな」 「覚えて……? 何を?」 「星見列車に乗ったこと」  そこで、彼が足を止める。 「乗車券を見せるってことは、この列車に乗っている理由があるから、のはずだけど」  横に並んだシンを、改めるように頭からつま先までしげしげと眺める。 「……ごめん、僕、なんにも。寝てたってことしか……」  申し訳なさそうに眉尻を下げると、彼は気にするな、というように笑んでうなずいた。 「寝起きだから仕方ないかもね」 「……覚えていないと、いけない?」 「そりゃ……、行き先がここならいいけど。もし途中の駅だったなら、引き返さないといけないし」 「引き返す……」  懸命に自身の記憶をたどろうとする。しかし、先ほどクータに起こされたとき以降のことしか頭の中には蘇らない。 ――困ったな。
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