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終点が目的地ならいい、クータに迷惑をかけることもない。見たところ、優しい少年であり車掌という頼もしい肩書きを持つ彼のことだ。多少は甘えてもいいのかもしれないが。
「覚えていないなら仕方ないよ。そういう人はいるから」
「……僕以外にも?」
「今日いるかは分からないけどね、俺は何回か会ったことがある。だから慣れてる」
クータにとっては、シンの登場はイレギュラーなものではなさそうだ。
「じゃあ、そうだな。シンのことを知るために、リゲルとベテルギウスに会いに行こう」
リデル、ベテルギウス。
あれ、とシンは無言のまま視線を上空へやる。屋根のあるここでは、空は見えない。しかし、隙間から見れるそれは、紺色よりもさらに暗い色をしている。
あの二つの名前は、どこかで。そう、理科の時間に聞いたことがあったような――。
「星座?」
「ん? ああ、リゲルとベテルギウスのこと?」
「そう。それって、オリオン座の……あ」
「分かったみたいだね。オリオン星宮の“オリオン”はそれだよ。だから、リゲルとベテルギウスは、この都市のリーダーみたいなものかな」
オリオン星宮は“都市”であるようだ。そのことを理解してふむふむと頷くシンの横で、クータは二人の顔を思い浮かべているのか、明るく言う。
「二人の居場所には心当たりがあるんだ。オリオン星宮を案内しながら、そこへ行くとしよう」
「う、うん、分かった。よろしく……お願い、します」
「敬語じゃなくていいって言ったのに。じゃあ、ついてきて」
相変わらず、優しい笑顔で、しかし言葉はわりと淡々で言うと、そのまま歩き出す。シンは置いていかれないようにあわてて追いかけた。
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