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あね・いもうと
私には美しい姉がいる。
宮原絢佳、高校3年生、17歳。
髪先をやわらかくカールさせた伸びかけのショート、わずかに潤んだ切れ長の目から放たれるどこか寂しげな光、少し厚めの下唇がうっすらと作る隙間。
一見、大人びて見える容姿、でも実は意図することなく、守り支えてあげたくなるような空気をかもし出してしまう。
特に目立つところもなく、どこをとっても十人並みの私とは対照的だった。
宮原愛美。それが私の名前である。高校1年生、15歳。
普通のサラリーマンの父と、美人でもブスでもない適当な容姿の専業主婦の母を加えた傍目には一般的な4人家族である。
絢佳が私とは異母姉妹だということを除けば。
私が小学校4年生の時だった。
木々が青葉に包まれる頃、真夏のような暑さが続いた後の冷たい雨の降る日、私は見知らぬ人の葬式に連れて行かれた。
退屈な儀式の最中、私がずっと見ていたのは、祭壇に掲げられた美しい女性の顔だった。
うつむき加減で微笑んでいるが、こちらを見ている目は決して笑ってはいない。何でもお見通しだよ、とでも言いたげなキツイ視線だ。
母に促されるまま焼香に立った私の目に、彼女の顔がより大きくはっきりと入ってきた。そして気がついた。
彼女は笑顔ではない。微笑んでいると思ったのは、ぽってりふくらんだ唇が薄く開かれているためだ。
これが大人の女性の美しさというものだろうか…
モノクロの写真がカラー以上に美しいと思ったのは初めてだった。
祭壇の前で手を合わせ遺影を見上げたままの私の頭を父がペコンと下げさせるまで、私はその場が葬儀場であることを忘れていた。
くるりと振り返り、遺族らしい老女に一礼している父母の後に続いて私も頭を下げた。
老女の隣には、深くうなだれている少女がいた。
頭を下げながら私は少女の顔を覗き込んで、はっとした。
写真の女性と同じ唇。
亡くなったのは、この少女の母親に違いない。
その後、私と母だけが家に帰った。
印象的な葬儀の模様も、母の作った夕食を食べテレビを見たり漫画を読んだりと、いつもと同じ時間がすべてかき消していく。
私にとっては、初めてのことを体験した子供の日常の一部としてそのまま忘れ去る一日のはずだった。父が帰ってくるまでは。
その日の夜遅く帰って来た父の隣にはあの少女がいた。
それが絢佳だった。
父は、私と絢佳を前にして、父と絢佳の母親がかつて結婚していたこと。絢佳が赤ちゃんの時に母親と離婚し、その後、私の母と再婚し私が生まれたこと。絢佳の母親が病死し、彼女を引き取ることになったこと。絢佳とは、母親は違うが、同じ父を持つ姉妹なので仲良くすることなどをとつとつと話した。
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