通り魔殺人

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通り魔殺人

 少し寒さが緩んできた2022年2月22日(火)の夕暮れ時は、西の空を赤く染める夕焼けが、いつもより黒味を帯びて、寒い夜の訪れを一層物悲しくしていた。 「何か、不気味だな。せっかく、私の生涯を掛けた傑作『イザナミ』が完成したというのに、縁起でもない」  天才的脳外科医かつ世界最高峰の脳機能研究者として名声をほしいままにする帝都大学医学部教授の伊澤奈義雄は、四谷キャンパスの研究室から西の空をぼんやりと眺め、頭を掻いた。振り返って、研究室内に置いてある真新しい機器に目をやった。小型冷蔵庫ほどの大きさで、上が透明なドーム状のガラス容器になっており、下がその機器を扱う計器類とスイッチが無数についていた。 同い年ほどの白衣の男が、そのドームのてっぺんを撫でながら、ハハハと笑って言った。 「まあ、そう言うなよ。今日はめでたい日だ。『イザナミ』が、お前の生涯の集大成だとすれば、『パペット』は私の、ロボット工学者西園寺為朝の人生そのものだ」
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