14人が本棚に入れています
本棚に追加
不規則に絡まる心音
今日はアベルの婚約者である、アリエル=アジャーニがやってきた。
アリエルが、アベルの婚約者に決まったのは二人が五歳のとき。それとほぼ同時に、俺がアベルの従者になったことや三人とも同い年ということもあって、俺たちの関係は幼馴染に近い。
とはいえ、俺は従者で、二人は王族とその婚約者。本当なら、幼馴染に近いほど仲良くなるはずがない。だが、二人が身分関係なく接してくれたことや、王宮や学園で長い時間を過ごしたこともあって、周りも許容してくれている。
アリエルはベッドに眠るアベルを一目確認すると、早々に隣の応接間へと行ってしまった。まるで作業かのような行為。それに不信感を抱きながらも、俺はアリエルの好きなお茶や菓子を用意して、応接間へと向かっていく。
「アリエル、来てくれてありがとう」
アリエルの前にカップを置きながら、アベルの代わりに感謝を伝える。信頼されているからなのか、扉を開けるのみで部屋の中には俺とアリエルだけ。そっと視線をやれば、顔を上げたアリエルが思いっきり睨みつけてくる。
キリッとつり上がった目、真っ赤に塗られた唇。この瞳に見つめられると、昔から少し怖気づいてしまう。
「それはどうも」
「なんだよ、そんなに怒って」
言葉を交わしつつ、アリエルの向かいに座る。正面から見た彼女の顔は、怒りに見ている。淑女として教育されてきた彼女も、俺たちの前では仮面を外し、素直に感情を露わにする。
「自分を振った相手に優しくするほど、私は優しくないわ」
目が合った、と思えば、ぷいっと顔を逸らされる。アリエルから、そのことを言われるなんて。ふいに思い出される気まずさに言い返す言葉が見つからず、俺は曖昧に笑みを浮かべる。
数ヵ月前、俺はアリエルに告白された。でも、俺は内緒とはいえアベルと付き合っているし、アリエルはアベルの婚約者だ。なにより、アリエルのことは友人としか見ていない。だから、丁重に断ると、アリエルは次の言葉を待つことなく去って行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!