夢の世界はどんな色?

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「俺はアベルが好きだ。どうかお願いだから、そのことを忘れないでくれ」 思いが伝わるようにと力いっぱい抱きしめ、耳元で何度も好きだと呟く。そうすると、少しずつ腕の中にあるアベルの身体が動き、背中に手が回っていく。それと同時に肩の辺りは濡れていき、アベルから鼻を啜るような音が聞こえてくる。 「……きみに、振られると思ったんだ」 小さなアベルの声。久しぶりに聞こえたその声は震えており、今にも消えてしまいそうだ。 「元々、第二王子である僕に告白されて、きみは断れなかったんだって思ってたんだ。だから、アリエルに告白されてるのを見て……。もう、ダメなんだって思ったんだ」 肩に置かれたアベルの頭が動き、目の前に現れる。目の辺りはすっかり涙に濡れ、肌はほんのりと赤い。もう一度瞳を見つめれば、ちゃんと視線が絡み合う。 「だからせめて、きみに振られるなら、雨の日がいいって妖精に言っちゃったんだ」 ――そうしたら、泣いても誰にもバレないから。 アベルがへらっと力なく笑う。それに俺も笑みをつくってみれば、自分が思ったよりもずっと固まっていたようだ。目が細まると、俺の目からも涙が零れ落ちていく。 「俺は、アベルが好きだ」 「僕もきみが好きだよ」 互いの気持ちを確かめ、抱きしめ合う。そうすると何か温かいものに包まれ、アベルと一つになったような感覚に陥っていく。 「ずっと俺のそばにいてくれ」 アベルと恋人になったときから密かに抱いていた願い。それを声にして放った途端、二人は深い眠りへと導かれていった。
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