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「お母さん、あれは何?」
その子供にとって、雨を見るというのは初めての経験だった。絶え間なく落ちてくる水の粒。幻想的、かつ美しい光景。世界が湿度に支配され、地面に粒がぱらぱらぱら、と落ちてくる。
室内の壁や床はすっかり濡れてしまって、降り注ぐ水がやむ気配はない。
一方母親は子供の言うことなどには目もくれず、恐怖に震えた瞳で計器盤を見つめている。
壁のモニターや機器のボタン、床の表示板や机上のコンピュータは、天井から降り注ぐ水によってどんどん濡れてくる。床はどんどん水浸しになってきて、スプリンクラーが作動を停止する気配はないようだ。
宇宙船内にアナウンスが流れる。
「致命的な火災が発生しました。酸素濃度が低下しています。直ちに消火活動を行ってください。繰り返します。致命的な火災が……」
<了>
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