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「すごい
この花、理世の好きな…」
「うん、大好きな花よ
アガパンサス」
「なんだか…光ってるね
俺もこの色、好きな色だから…さ」
泰章は、何か言い淀んだ。
理世は、赤いパンプスで構わず玉砂利に踏み込み
腰のあたりまで伸びた花の中にしゃがんで
大きな一輪に、鼻先を寄せた。
香は微かな花。
泰章がポケットからスマホを取り出して
シャッターを切る。
理世の思惑通り。
青白く光る花群の間に身を沈めた理世の横顔が
切り取られたはずだった。
(きっと泰章は写真を撮りたがる)
ティーラウンジを出るとき
珍しく、真っ赤なリップをさっと塗ってきたのだ。
これで、泰章のスマホに残る理世の最後の写真は
永遠に鮮やかな赤い唇に彩られた。
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