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「いい店だね
やけに落ち着くよ」
泰章は、まだ柔らかそうな顎鬚を片手で撫でて
ソファに身を沈めた。
手首に時計の跡を残して
肌がほんのり焼けている。
今年はもう、波乗りに行ったらしい。
波乗りと言っても、今はサーフィンはしない。
ボディボードに腹ばいに身を預けて
本当に波に揺られに行くだけだ。
それが泰章の大事なスイッチタイムなのだ。
黒いワークパンツにTシャツ。
カジュアルなファッションが、
この店の雰囲気に全く似合ってなかったが
本人はここが気に入ったみたいだ。
「ステキでしょ?
チーズケーキもおいしいの
すぐそこがベルギー大使館で
しょっちゅう買いに来てるわ」
「へえ、でもこれからご飯だしね
理世 何食べたい?」
「そうねえ…水餃子」
「いいね~水餃子
じゃあ、麻布十番まで歩くか」
理世の提案に、泰章は必ず「いいね!」だ。
そんなに合わせてくれなくてもいいのに、
と、初めは思っていたが
別に無理してるのでもないらしい。
好みや考え方が似てるということもあるが
まあ「恋のマジックだ」と理世は思っている。
理世は何もオーダーせずに
2人はティーラウンジを出た。
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