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40を少し過ぎたころから
白髪染めの話を同年代の友達から聞くが
不思議に理世には白髪が無かった。
食べても太れない身体に比べて
髪だけが、いかにも多く健やかで
「食べた栄養、みんな髪の毛が吸っちゃうんじゃない?」
と、からかわれたりした。
若い時はパーマをかけたりカラーをしたり。
そういうことに飽て何もしなくなってからは
髪は、前にもまして豊かに艶やかになっていく。
それで理世は髪をいかにも大切にした。
数ヶ月に一度、美容院で綺麗にそろえ
朝晩、ローズオイルをしみこませた柘植の櫛で
丁寧に時間をかけてとく。
その髪を、ほとんど根元から切ったのは先月のこと。
これから始まる強い薬物治療で
長い髪がバラバラと抜ける可能性もあると聞いて
煩わしさを避けるため
思い切ってベリーショートにしたのだ。
髪を切った理由について
つまり、病気について
誰にも話していない。
だから髪を切った時の周りの反応は大きかった。
とくに泰章は、どうして…と絶句したのち
ショックを受けて、戸惑っているようだった。
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